紙の動物園  ケン・リュウ

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タイトル作がヒューゴー賞ネビュラ賞世界幻想文学大賞を受賞した、日本オリジナル短編集です。又吉さんがおすすめの本ということで、日本でもかなり評判になりました。
全十五編所収です。特に心に残った作品を紹介します。

『紙の動物園』
アメリカ人の父がカタログで選んだ中国人の母は、折り紙に命を吹き込む不思議な力を持っていました。しかし大人になるにつれ息子は、母が中国人である事を疎ましく思うようになり…。
折り紙の虎「老虎(ラオフー)」に込められた母親の思いに胸を衝かれます。SFというよりファンタジー寄りの作品だと思いますが、叙情性が際立つ作品です。

もののあはれ
これもヒューゴー賞受賞作です。元のタイトルもこの通り。
小惑星が地球に衝突する事が分かり、限られた宇宙船に、家族と離れて乗る事になった少年の物語です。
主人公が久留米市出身の日本人で、名前を「大翔(ひろと)」といい、今風の名前です。心象風景を俳句で表すなど、日本に関わる描写も違和感がありません。未来的な物と、漢字や囲碁など、古くからの文化を絡めているのも印象的です。

『結縄』
縄に結び目を作る事で記録をする民族のところにアメリカ人の男が表れ、結縄本の表し方を教えるよう請います。それは驚くべき科学的事実と結びついていました。
インカ帝国で使われていたという結縄文字を元に、こういう発想ができることがすごいですね。

『選抜宇宙種族の本づくり習性』
宇宙の種族における本とはどういう物かについて、種族ごとに述べた物語です。
最初の種族の本はレコードから発想してるなって分かりますが、後は、想定外の異色の本ばかり。でも、種族と表し方は違っても、本はやはり必要で大切な物なのだなと感じさせられる、本への愛情溢れた一編です。

『心智五行』
宇宙で遭難して、決死の移動を試みた惑星で彼女が出会ったのは、過去に地球から移民した人々でした。彼らは地球の進歩とは違う独自の文化を築いていました。
五行を元にした医学に始めは不信感を持ちながら、だんだんとそれを認め、心を許し合う過程にほのぼのとしたものを感じます。

『どこかまったく別な場所でトナカイの大群が』
生身の体を捨て、精神をアップロードしてデジタルの世界で生きる事を選択している世界。デジタル生まれの娘と、始めは生身の体で生きていた母親との交流を描いた物語です。
母親と旅をしながら、地球の変化を目の当たりにするシーンがダイナミックです。
この後の『円弧』『波』も不死の可能性を探求する物語で、作者が関心をもつテーマなのだということが、後書きでも語られています。

『良い狩りを』
妖怪退治師の息子である主人公は、退治した妖狐の娘を逃してしまい、その後の人生で何度も出会うことになります。
街が機械化され、妖怪は居場所を失った時、妖狐の娘のする選択がそれまでの話の流れとはがらりと変わっていて驚かされます。


『紙の動物園』『選抜宇宙種族~』『心智五行』『どこかまったく~』が特に好きな作品です。
独特の叙情性と、古来と未来の融合、祖国中国への思いを色濃く表した作品がこの作家さんの特徴ですね。

作品の終わりにテッド・チャンと同様のテーマを扱っていることや、チャンの了承を受けていることなどが記してあります。
私はテッド・チャンの作品は一作しか読んでいないのですが、(『商人と錬金術師の門』)この作品があまりにも素晴らしく、同じ中国系のSF作家として影響を受けるのももっともだなと思いました。
この本を読んで、チャンの作品も読みたくなるっていう人、けっこう多いんじゃないでしょうか。