母と暮せば  監督 山田洋次

イメージ 1

井上ひさしさんの戯曲「父と暮せば」と対になる作品であった物語を、遺志を継いで山田洋次監督が映画化した作品です。主演の二宮くんが、キネマ旬報ベストテンの主演男優賞、日本アカデミー賞の主演男優賞に輝きました。
長崎に原爆が落ちて亡くなり、3年後に霊として現れた浩二(二宮和也)と、母伸子(吉永小百合)との温かい交流を描いた物語です。
ネタバレありますのでご注意下さい。

イメージ 2


原爆、残された母親、結婚するはずだった恋人…とつらい現実を描きながら、重いだけの物語になっていないのは、主演の2人の醸し出す雰囲気が大きいと思います。
「あきらめの悪かね、母さんは」
母さんが自分のことをなかなか諦めてくれなかったので、3年も出てこられなかったと明るく言う浩二。その不思議な出来事を自然に受け入れている伸子。いくつになっても可愛らしい雰囲気のある吉永さんと、軽妙な二宮くんのやり取りは見ていて微笑ましく、クスッと笑えるところも多かったです。
また、浩二が生きている時のそのままに、好きなクラシックに合わせて指揮をしたり、寮歌を歌ったりするシーンなど、ファンタジックな演出もされていて楽しめました。二宮くんファンにも嬉しいですね。

恋人の町子(黒木華)は、浩二が亡くなった後も伸子を支えていました。
いまだ独り身の町子のことを心配する伸子に、それだけはうんと言えない浩二の心情が切なく…。でもやがて町子の幸せを願うようになります。
「町子が幸せになってほしいっていうのは、実は僕だけじゃなくて、僕と一緒に原爆で死んだ何万人もの人たちの願いなんだ。 町子は僕たちの代わりに、うーんと幸せにならんばいかん」
この言葉、本当に胸に染みます。

この映画は、舞台こそ戦争後ではありますが、残された人々がどう生きていくかというテーマは、現代の私達にも通じる事です。大切な人が亡くなった後、自分の人生をしっかりと生きる事が、亡くなった人たちの願いを叶える事にもなるのだと感じました。
伸子が亡くなった時に、浩二と笑顔で歩いて行けるのも、そういう生き方ができていたからではないかと思います。
伸子だけでなく、町子、本田望結ちゃんが演じていた父を亡くした少女、それぞれがつらさを乗り越え、懸命に前向きに生きようとする姿が印象的でした。

それまで町子に会うとつらくなると言っていた浩二が、伸子の葬儀の時にやっと町子に会い、「町子…」と声をかけた時(もちろん町子には聞こえません)、たったその一言なんだけど、その声が懐かしさや、愛しさ、相手の幸せを願う心…とさまざまな思いがこもっているようで涙が止まりませんでした。

二宮くんと吉永さんの演技はもちろん、ストーリーも素晴らしい名作だと思います。
ぜひ多くの人に観て頂きたい映画です。