一角獣・多角獣  シオドア・スタージョン

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異色作家短篇集』第3巻です。旧版では一番手に入りにくかったというマニア垂涎の書も、今では手軽に…とは言わないまでも(けっこうお高い)読むことができるのはありがたいです。
解説にもなかったので自分で原題の意味を調べてみたのですが、「E pluribus Unicorn」は、ラテン語の成句「E pluribus unum」(多数から一つへ)を元にしているのではないかと。「多角獣」としたタイトルの苦労が偲ばれます。

「一角獣の泉」
一人の男を巡る、二人の女。男は目を病んでいた間自分を世話してくれた女性を知りたがります。一角獣が選ぶのはどちらなのか…。男女の物語を、非情に美しいイメージで包んだファンタジーです。

「熊人形」「ふわふわちゃん」
熊のぬいぐるみや、「ふわふわちゃん」と呼ばれるかわいい猫が恐怖へとつながる物語。
グルーミーっていう、暴力的なピンクの熊のキャラクターがありましたが、そんなイメージですね。

ビアンカの手」
短編集『海を失った男』で既読です。手に執着するフェティシズムを描いた作品です。
手さえ良ければ他はどうでもいいっていう描写自体が怖すぎです。

「孤独の円盤」
空飛ぶ円盤に話しかけられた女性は、自分に近づいてくる人々はその内容を知りたがる人ばかりだと知り、孤独を募らせます。円盤の正体が意外です。

「めぐりあい」「反対側のセックス」
元々は惑星直列を意味する言葉ですが、生殖上のある作用「シジジイ」をテーマにした作品です。「めぐりあい」は『海を失った男』に「シジジイじゃない」のタイトルで所収でした。「監房ともだち」もちょっと似たところあるので、明記はされていないけどこれも「シジジイ」の一種?

「死ね、名演奏家、死ね」
何とも物騒なタイトルですが、人を妬んだ男が陥穽にはまる様子を分かりやすく描いた作品です。人気バンドで口上を担当するフルークは、女性を巡るいざこざからバンドリーダーのラッチを始末します。しかし、フルークが思う以上にラッチの影は濃く…。生きている時以上にラッチを意識し始めて、追い詰められていくのがリアルです。

「考え方」
主人公は友人の弟が謎の病で苦しんでいることを知ります。それは普通では考えられないような症状でした。原因をつきとめた主人公は、友人から復讐を考えていることを聞かされます。
いろいろ想像させられて、それが怖いです。でもやっぱり一番怖いのは人ですね。

ファンタジー、ホラー、SF、サスペンスと、さまざまな作品が載っていて、スタージョンの引き出しの多さを感じました。既読も含め「一角獣の泉」「ビアンカの手」「死ね、名演奏家、死ね」「考え方」が特に印象的でした。スタージョンは意外にもコメディタッチの作品もあってこれがけっこう面白いので、そういうのもまた読みたいです。