AX  伊坂幸太郎

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凄腕の殺し屋「兜」は、家では妻に頭が上がらない恐妻家です。一人息子の克巳もいて、家族のためにも仕事から引退しようと思いますが、仕事を斡旋する「医師」は一筋縄では行かず…。

「マリアビートル」以来の殺し屋シリーズです。「マリア~」の新幹線での事件が語られ、蜜柑と檸檬を始め、懐かしい殺し屋の名前が次々と出てきて嬉しくなります。
だけど、非情な殺し屋の世界、活躍した殺し屋たちも一部を除いてほとんど死んじゃってるんですね。
この物語でも例外ではありません。たとえメインの登場人物でも、愛すべき人間でも惜しげもなく退場させる展開は、ドラマの「ゲーム・オブ・スローンズ」をふと思い出してしまいました。

タイトルの『AX』は蟷螂の斧のことです。「自分の弱さをかえりみず強敵に挑むこと」という意味であり、兜の、組織への抵抗を表しています。
自分の周りの人間がこんなに次々に襲ってきたんじゃ、人に対する信用がなくなりますね…。自分の周囲にいることで知り合いが巻きこまれる危険もあるし。雇われ家族である「劇団」のように隠れ蓑ならともかく、普通に考えると殺し屋って家庭を持つのは無理なんじゃ?と思います。でも、それでも殺し屋が家庭を持っていたら?というのがこのストーリーの面白さですね。

兜にとって最も信用がおけるのが家族なのは分かりますが、なぜそこまで妻の顔色を伺いながら生活しているのかずっと不思議でした。そう言えば『必殺仕事人』の中村主水もそうでしたね。裏ではあんなに強いのに、家では奥さんと姑に頭が上がりませんでした。主水の場合は隠れ蓑の意味合いもあった気がしますが、兜にとってはそうではなくて、本当に家族を愛していて、心から守りたかったのだと思います。
扱いにくい妻をなぜそんなにも大切に思っているのか…については最後に分かります。素敵なエピソードで、荒んだ兜の心にふっと暖かい灯がともったのが感じられるようです。その時の思い出の品、大切に持っていたんだな、と思うと涙でした。

一番の見せ場のマンションのシーン、けっこう危ない橋を渡ってますよね。あの展開は予想がついたのですが、例え管理人に念押ししてたとしても、鍵が家の中にあるということは家族が一番に見つける可能性が高いわけですから。実際あそこで管理人が止めにはいってくれたので危機一髪でしたが。

でも、そんな勧善懲悪のストーリーも、伊坂さんらしくて嬉しくなってしまいます。
克巳の元を、兜が救った人々が訪れて、人々の思いを受け取るシーンいいですね。ラストに奈野村が克巳に向けて言った「ただの…」という台詞も心に響きました。
克巳は子供の時から兜の理解者でしたが、兜の仕事のことは知らないままでいてほしいな、と思いました。兜が守った家族、ずっと幸せでいてほしいです。



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殺し屋シリーズ、2冊とも読んだけど、いまいちドキドキしなかったんですが、これは面白いですか?
藤田まこと演じる中村主水は大好きで、今でもニコ動とかで殺陣のシーンばかり集めた動画を観てストレス解消しています(;´∀`) 削除

2017/8/29(火) 午後 9:59 あややっくす 返信する
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あややっくすさん

殺し屋シリーズは、ドキドキさせる、っていうのとはちょっと違うかも知れませんね。キャラクターと、思わぬつながりを楽しむという感じかも。
「AX」は一言で言うと感動作ですね。
私も「必殺仕事人」好きです。かっこいいですよね。 削除

2017/8/30(水) 午後 8:03 ねこりん 返信する
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殺し屋稼業の時は冷酷で淡々と仕事をこなすのに、家庭では妻に弱く、息子に甘くて、人間くさい兜のことが大好きになりました。それだけに、あの展開は・・・堪えました。最後の、奥さんとの馴れ初めのエピソードが良かったですね。兜の家族への愛に深さにじーんとしちゃいました。 削除

2017/9/1(金) 午後 9:05 べる 返信する
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>べるさん

兜の身体能力が凄すぎますよね。家庭にいる時の様子とのギャップに驚きました。妻にもうちょっとはっきり言っても…と思いましたが、それが兜の愛情の示し方だったのかも。
ラスト4ページには泣かされました。伊坂さん、さすがです。 削除

2017/9/1(金) 午後 9:41 ねこりん 返信する
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なるほど、中村主水ですか(笑)仕事人の設定も伊坂さんの殺し屋シリーズと似ている部分があるので現代版仕事人かもしれませんね。
今までの殺し屋シリーズとは雰囲気が違いましたが読後感はとても良かったです。 削除

2017/9/2(土) 午前 11:16 [ テラ ] 返信する
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>テラさん

兜の設定を読んで、すぐに中村主水だって思いました(笑)「必殺仕事人」は良い人も悪い人もみんな死んじゃってレギュラーだけが残る、ってイメージでしたが、そういう所を少し踏襲してるのかも知れませんね。
ゴールデンスランバー』などもそうですが、ラストのエピソードの素晴らしさには、さすがとしか言えません。 削除

2017/9/2(土) 午前 11:46 ねこりん 返信する