風神の手 道尾秀介

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久しぶりに読んだ道尾さんです。読んでない作品もいくつかありますが、すっとばして、評判の良い最新作に挑戦しました。

下上町(しもあげちょう)、上上町(かみあげちょう)という二つの町を舞台に、そこで行われた護岸工事で起きた事件と、遺影専門の写真館「鏡影館」に関わる三つの物語で構成されています。

『心中花』
遺影を撮影しに来た奈津実が、若い頃出会った、川の上で松明を振って鮎を追い込んで獲る火振り漁の漁師である青年との恋物語を回想します。
護岸工事中に起きた、消石灰の流出事件によって、工事を請け負っていた奈津実の父親の会社は倒産します。引っ越しが決まり、引っ越すまでのわずかな間に、奈津実は火振り漁の漁師である崎村と出会います。初々しい恋愛の様子が描かれますが、いくつもの出来事が関わりあって、思わぬ展開を見せます。
くらげパチンコという、橋の上から石をくらげに向けて落とす子どもらしい遊びが、まさかそんなことに繋がるなんてと、愕然としました。昔の道尾さんの作品なら、その章は暗い結末のまま終わったと思いますが、その後さらに驚きの展開が待っています。

『口笛鳥』
腕白小僧同士の交流と、冒険譚が描かれています。
でっかちとまめ、の二人のキャラクターがいいですね。藤子不二雄さんのアニメに出てきそうです。
冒険を通して、でっかちの人となりや、思わぬ人間関係が分かって来るのが良いです。
そしてラストに、消石灰流出についての鍵となるような写真が提示されて、次の物語へと続きます。

『無常風』
奈津実の父の建設会社中江間建設が倒産したあと、その後を引き継いだ野方建設の社長、逸子は病魔に侵され、死を前にしていました。
消石灰流出の真相がついに明らかになる、と思いましたが、可能性を明らかにした、という感じに終わりましたね。真相は藪の中です。ただ、犯罪を犯した人間でも、本当に悪い人は誰もいなくて、巡り合わせが悪かったとしか思えないものもありました。「風が吹けば桶屋が儲かる」の逆バージョンだな、と思いましたが、奈津実の娘歩実が何度か振り返るように、その風が不思議な巡り合わせで、歩実の人生の根本に関わってきたことなど、全てが悪かったわけではないのですね。タイトルの意味が分かりました。

エピローグ『待宵月』では、メインの登場人物が一堂に会して、ウミホタルを採集します。事件に関係があり、嫌な感じに使われたウミホタルがラストに本来の美しさを取り戻した気がします。

人生の影の部分、光の部分を見事に描き出す道尾さんらしさが表れた作品でした。