空飛ぶタイヤ  池井戸潤

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運送業者を営む赤松は、運送中のトラックのタイヤが外れ、そのタイヤが歩行中の親子の母親を直撃する事故を起こしたことを知ります。
トラックの壊れた部品を、トラックの製造会社であるホープ自動車に検査に出し、「整備不良」という結論を出したホープ自動車に疑問を持ちます。それが、赤松にとっての長い戦いの始まりでした。

いやー、赤松に降りかかる災難と来たら。こんな苦難の道のりある?っていうくらいです。ホープ自動車は、トラックの部品に欠陥があることを知っていながら、リコール隠しをしていたので、当然のごとく赤松の抗議も受け入れず、部品の返却にも応じず、赤松運送に事故の責任を押しつけようとします。世論の攻撃にさらされた赤松運送は、大手のクライアントから契約を切られ、資金繰りが苦しくなり、倒産すれすれの綱渡りを強いられます。

また、息子の小学校のPTA会長をしている赤松は、学校で起きた盗難事件の犯人として息子が疑われていることを知ります。女王蜂と陰であだ名される片山は、とんでもないモンスターペアレントで、盗難事件のことや事故のことを逆手にとって、赤松を糾弾します。
会社のことだけで手一杯の赤松なのに、さらに学校のことまで…。もうそれぐらいにしといてあげて!と言いたくなります。

リコール隠しのためのT会議の存在を知った、ホープ自動車の沢田は、自分の妨げになる上司の狩野を追い落とすために、告発書を作成し、社長に提出しますが、それが彼を追い詰めることになります。

一方、ホープグループの系列銀行であるホープ銀行の井崎は、ホープ自動車の経営計画に疑問を抱き、独自の調査をする中で、リコール隠しについて知ります。ホープ自動車から融資を依頼されているのですが、井崎は反対します。

捨てる神あれば拾う神ありという感じで、何とか倒産寸前で踏みとどまるのですが、ホープ銀行が今までに融資したお金を返してくれと言ってきたり、赤松にとって頼みの綱だった、リコール隠しについての記事が差し止めになったりなど、八方ふさがりになった赤松は死も考えます。

しかし、ここからがまさに反撃開始!です。
赤松が自らの足で集めた今までのホープ自動車製のトラック事故についての証拠が実を結ぶのです。ここまでの赤松の努力と来たら、血のにじむような、と言う言葉がぴったり来ます。
その努力の様子をずっと読んで来ただけに、反撃を開始してから感じるカタルシスは類を見ないほどです。逆境から這い上がる姿には思わず拍手を送りたくなります。ラストシーンの赤松のモノローグには泣けました。

井崎の存在はかなりクローズアップされていますが、この事件にどんな風に関わってくるのだろうと思っていましたが、実は彼も赤松を助けるのに結果的に一役買っていたのですね。

沢田は、自分の事だけを考えて行動しているのは一貫していて、最後の切り札も、自分が閑職に置かれなければ出てくることはなかったでしょう。義憤に駆られてとか、会社のことを考えて、とかいうのでなかったのは残念ですが、そういう登場人物ばかり出てくるのは不自然だし、彼のように、自分の夢を追うことだけを追求した生き方をするのも普通かな、と思いました。

皆さんご存じと思いますが、この物語は、実際の死亡事故と大手自動車会社の長年に渡るリコール隠しをモデルとしています。私も読みながら、ああ、あの事件だなと思い出しました。実際には、運送会社は責任を負って倒産してしまったそうですが…。

もうすぐ公開になる映画では、赤松をTOKIOの長瀬くん、沢田をディーン・フジオカ、井崎を高橋一生が演じてます。
赤松の熱血で泥臭い生き方が、鉄腕ダッシュで汗にまみれて働く長瀬くんの姿につながります。読みながら、長瀬くんは赤松にぴったり!と思いました。