悪徳の輪舞曲  中山七里

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弁護士御子柴シリーズ最新作です。
過去に重大事件の当事者だった御子柴ですが、冷徹で凄腕の弁護士として名を馳せます。このシリーズは、御子柴がどういう思いで人生を送っているのかということと、だんだんと人間らしさを獲得したり、垣間見せたりする姿を、事件の弁護をする中で描き出しているのが読みどころです。そういう御子柴の姿を見るのが、読者としても嬉しいのです。

今回は何と、御子柴の母親郁美が、夫殺しの犯人として逮捕され、御子柴の妹の梓が弁護を依頼してきます。
今まで御子柴の家族について詳しく描かれたことはなかったのですが、父は自殺し、母は面会に一度も来ないまま再婚、一家は離散していました。
御子柴自身も、家族を振り返ることはなかったのが、思いがけず、家族と関わらざるを得なくなります。家族ではなく、あくまでもクライアントと考えて弁護を引き受けることにしたものの、弁護の計画の一環として、郁美という人間を調査する中で、自分の過去とも改めて向き合うことになります。
家族ということを意識せずに事件に関わるつもりでしたが、時折自分のペースを狂わせられ、弁護士事務所の事務員にもいつもと違う様子を指摘され、不本意な御子柴でした。

この物語は、郁美が犯罪を犯すシーンから始まり、これはシリーズ一作目の『贖罪の奏鳴曲』が御子柴が遺体を始末するシーンから始まるのを想起させます。何か仕掛けがあるのではないかと思いましたが、これについては途中で気づきました。でも、この事件の真相はほんとに意外なもので、驚きました。また、弁護の切り札として、「郁美がかつての重大犯罪少年の母親であること」をどういうふうに出して来るのかと思いましたが、これ以上はない場面で、真相を明らかにするために効果的に使っていて、法廷劇としても、今回も素晴らしかったです。

ラスト近く、郁美から、御子柴にとって驚くべき事実が明らかにされます。
今まで、梓から、御子柴のせいで家族がどんな悲惨な目に遭ったか責められても、心を動かすことがなかった彼ですが、この郁美の告白には動揺します。

そして、ラストシーン、登場しましたね。御子柴のウィークポイントのあの子が。
彼女の素直な一言が、御子柴からも素直な一言を引き出します。『恩讐の鎮魂曲』同様、温かい気持ちになる終わり方でした。
やはり、人の心を動かすのは愛なのだなあと思った物語でした。