愛なき世界  三浦しをん

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キャッチコピーを読んで、有川さんの『植物図鑑』みたいな感じかな?と思って読み始めたら、だいぶ違ってました。こないだまで放送されてたドラマ「僕らは奇跡でできている」の世界観に近かったです。

T大大学院で植物の研究をしている本村紗英は、ひたすらシロイヌナズナの研究に邁進する院生です。近くの洋食屋に勤める藤丸は、出前で大学院に出入りして本村と出会い、彼女から研究の話を聞くうちに植物に興味をもつようになります。彼女の植物に対する思いに触れるうちに、彼女に対して特別な気持ちを抱くように。

本村の研究について、かなり専門的な話が語られるので、藤丸と同様ついて行けなくなる部分もありましたが、本村がシロイヌナズナについて心から知りたいという、ほとんど愛と言ってもいい気持ち、それは分かるような気がするのです。

私個人の話になりますが、以前から交流のあるブロ友さん達は、私がキノコを始め植物や生き物に興味をもっていることをご存じの方もいらっしゃると思います。生物の研究者を志した時期もありました。実際、高校までは理系にいました。そんな私に立ちふさがったのが数学の壁です。理系に進むためにはどうしても数学が必要でした。
一応数Ⅲまで学習したものの、数列と微積分しかない数Ⅲについて行けず大学は文系に進みました…。
でも、生き物への興味はたぶん子供の頃とさほど変わってない気がします。だから、ドラマの高橋一生さん演じる一輝や、本作の本村にはとても親しみを感じるし、好きな研究に熱中して他が見えなくなることも理解できるのです。

タイトルの「愛なき世界」は植物の世界のことで、本村はそれに入り込むあまり、自分の恋愛は…。それでもそんな彼女の気持ちを理解して見守る藤丸くん、なんていい人なんでしょう!藤丸の作る料理がまた美味しそうで、本村に美味しい料理を作って食べさせることで支えているのですね。
本村の研究と藤丸の料理がことあるごとに比較され、研究の内容も料理に置き換えて語られると、藤丸にとっても読者にとっても分かりやすいです。

本村のいる研究室の面々も魅力的です。いつも黒いスーツで殺し屋のような教授松田は、一見取っつきにくく見えるけれど、学生のことをよく見て親身になってくれる頼りになる人です。すっとぼけた面もあり、新入生を威圧しないために色味のある服を着てきてくださいと頼まれて、ピンクのアロハシャツを着てきたところには吹き出しました(笑)有能で優しい川井、「緑の指」を持ち、植物は何でも茂らせてしまう加藤、本村の他の唯一の女性で、面倒見の良い岩間、それぞれが研究に熱中してはいるものの、いざという時には一丸となります。

いい環境にいて本村は恵まれてますね。でも、本村の研究は読んだだけでも気が遠くなるような根気のいるもので、こんな細かい作業、年を取って老眼になったらできそうもないです。
クラゲ蛍光たんぱく質を発見してノーベル賞を取った下村脩さんは、毎日山のようにクラゲを採集なさったそうで、研究ってほとんどは根気と忍耐なんでしょうね。でも、新しいことを見つけたり知ったりしたいという意欲があるからこそ続けられるのでしょう。
本村たちは将来海外の学者たちとも交流できるよう、研究室の発表会でも全て英語で行うそうです。自分の研究と英語は基本的には関係なくて苦手でもやらなくてはならないので、数学が苦手で生物学の道を諦めた自分をちょっと反省しました。

「ボクキセ」の一輝は、自分の中の光を大きくしたいと、新たな道にチャレンジすることを決めましたが、本作でも光が重要なファクターになっています。偶然でしょうが、二作にはいろんな面で共通点がありますね。

専門的な話は難しかったものの、笑ったり泣いたり、とても感情を揺さぶられる物語なので、大勢人がいるところでは読めないかも知れません。でも私はこの物語がとても好きです。『愛なき世界』というタイトルではあるものの、きっと読者はこの物語から愛を感じることでしょう。