テンペスト  池上永一

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琉球王国の王家の血筋を密かにつぐ孫家に生まれた真鶴は、すばらしい才能と美貌に恵まれていました。しかし、学問は男性だけに許されたものだったため、真鶴は髪を切り、男性孫寧温となって、中国の科挙にあたる科試を受けます。見事に科試を突破した寧温は宦官と偽って王宮である首里城に勤務することになります。彼女の行く手には様々な陰謀と波乱が待ち受けていました。
一人の女性の人生と、琉球王国の終焉までを描いた豪華絢爛な王朝絵巻です。

厚さと装丁から、重厚な小説と思っていましたが、読み終わってみるとかなり違う印象を持ちました。真鶴&寧温の浮沈の激しい人生はまさにジェットコースターのようです。あまりにも次々に移り変わっていくので、ゆっくり場面や心情を味わう間がないように思いました。その分琉歌(琉球版短歌)が効果的に使われているのだな、と思いましたが。
キャラクターの設定の仕方や、地の文に出てくる片仮名のせいでライトノベルぽい感じも…^^;

真鶴が寧温として、自分の才覚で、次々に国内問題や列強との難題を解決していくところは痛快です。クイーンズ・イングリッシュを駆使して外国の使者と渡り合う姿には圧倒されます。しかし宮中には寧温をこころよく思わない人達が大勢いて、様々な苦難に遭うのですが、どんなに追い落とされても不死鳥のようにまた蘇ってくるところがすごいです。
下巻で国の重鎮としての寧温と、あごむしられ(側室)としての真鶴を行き来する綱渡り生活には唖然とします^^;

同様に聞得大君(真牛)のしぶとさにも感心します。彼女も真鶴以上に波乱の人生です。最低の身分にまで落とされながら、王族神としての誇りを失わず、もう一度聞得大君に返り咲くことだけを思って生き続けた彼女には鬼気迫るものがあります。ずっと自分を追い落とした寧温への恨みを持っていたのが、最後に馬天ノロの勾玉によって昇華したところは心に残るシーンでした。深窓の姫君だったにも関わらず、妙に商才に長けているところとか、初めて恋を知るところとか、何だかかわいらしささえ感じます。真鶴が完璧すぎるキャラなので、聞得大君の人間くささがかえって印象に残ります。

真鶴の親友である側室の真美那は完全にギャルです^^;こちらも深窓の姫君ですが、真鶴を助けるために超高級茶碗を割るなど、手段を選ばないところは真鶴もかないません。お菓子をやたらに焼くのが好きで、「真美那泣いちゃう…」が殺し文句ですw

女官長である大勢頭部や、王母、王妃、聞得大君など、入り乱れてのどろどろ女の争いはまさに大奥で、一人が出てくると文句を言うために次々に「~様のおなーりー」と現れるところは笑えますw
この物語ではいろんな意味で女性のたくましさが光りますね。
寧温の親友である喜舎場朝薫や真鶴の生涯の恋人である薩摩の浅倉雅博など、男性陣もがんばってはいるのですが、女性陣に比べると影が薄いです^^;兄の嗣勇は要所要所で活躍しててなかなかいい味出してますね。儀間親雲上にももう少し出番ほしかったなあ…。
あと、徐丁垓は品性下劣すぎて、この物語から浮いてますね…。出さない方が良かったです。

琉球王国終焉からラストまでの流れは、終わりゆくものを静かに見送るような筆致が、この物語を締めくくるにふさわしい気がしました。また、真鶴も雅博も50過ぎてるわけで、それを考えるとよくここまでたどり着いたなあと思います。琉歌に込められた思いが伝わってきて心に残りました。

琉球王国のことは今まで少しの知識しかありませんでした。武器を持たず、美と教養の文化によって発展してきたこと、清国と薩摩の間に挟まれ、その舵取りをしながらの難しい立場にあったことなど、この本で初めて知りました。ペリーが浦賀に行く前に琉球に行っていたということも知らなかったし…。寧温のように、ペリーと丁々発止の交渉をした人物がきっといたのでしょうね。
今は普通に沖縄県として認識してる土地に、こういう波瀾万丈の歴史があったということを改めて知ることができたのは良かったと思います。

~補足~
池上さんが「テンペスト」を書くにあたり相談したという、琉球史家の高良倉吉さんの、野生時代9月号の記事を読んで、とても感銘を受けました。
この方は太平洋戦争で完全に破壊された首里城を復元するプロジェクトに携わっておられた方です。当時のままの姿に復元された首里城は華麗であるけれど、そこに人々の人生の匂いが欠けている、と高良さんは感じていました。池上さんに望んだことは「首里城に物語の魂を入れる」ということだそうです。そう考えると、「テンペスト」の中でリアルに息づく人々の姿は、高良さんの望みを体現したものだったのではないかと感じました。
高良さんの文章は物語のように美しく読み応えがあり、一生を琉球の研究に捧げている思いの深さが感じられました。「テンペスト」を読まれた方、これから読む皆さんにも、ぜひ読んで頂きたいです。



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今から思うと、真鶴はちょっとできすぎた感じだったのかもしれません。私はお嬢様の真美那が好きでしたね~、育ちが良いとはこう言うことだわ、としみじみ思いました(笑)。
こちらからもトラックバックさせて下さい♪ 削除

2009/1/5(月) 午前 0:30 智 返信する
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う~ん、ねこりんさんの感想を見ると結構自分の持っていた印象と違うかも。面白そうな感じも受けるのですが、やはりどうしても長さに怯んでしまうなあ・・・ 削除

2009/1/5(月) 午前 0:58 よも 返信する
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>智さん
天真爛漫な真美那はホッとすると同時に頼りになる存在でしたね^^鹿鳴館の花になるところとか、彼女らしいと思いました。
真鶴は欠点がなさすぎるところが欠点なのかも…^^; 削除

2009/1/5(月) 午前 1:06 ねこりん 返信する
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>よもさん
長いのはあまり気になりませんでしたよ。ラノベぽい感じも、歴史物を身近に感じさせる効果はあると思います。
すらすら読めると思うのでぜひチャレンジしてみて下さい^^ 削除

2009/1/5(月) 午前 1:09 ねこりん 返信する
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池上さんの小説には「やりすぎ」を感じることが多いのですが、沖縄という舞台では「それもあり」と思わされてしまいます。この本で徐丁垓が浮いていたのは、沖縄人ではなかったからかしら?
でも、これだけの荒唐無稽さを小説の枠に収めてしまうというのは、並大抵のことではありませんね。次作にも期待してます。 削除

2009/1/5(月) 午前 7:07 りぼん 返信する
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>りぼんさん
池上さんが沖縄について並々ならぬ愛情を抱いておられることが伝わってきますね。
先日バックナンバーを見つけて買った野生時代9月号の池上永一特集は池上さんによる首里城ナビなどが載っていて楽しめました^^ 削除

2009/1/5(月) 午前 10:39 ねこりん 返信する
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真美那は完全にギャル(笑)確かにそうでしたね~^^
彼女の裏表の無い天真爛漫な性格が大好きでした。
初めて読了した池上作品でしたが、想像していたよりも読み易く楽しめました。
次は「シャングリ・ラ」も挑戦してみたいです♪
TBさせていただきます(*^∀^*) 削除

2009/1/6(火) 午前 6:53 [ - ] 返信する
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>うららさん
宮廷生活において、友達を得るというのは難しいことでしょうから、真鶴にとって真美那はほんとに大切な存在だったでしょうね。
風車祭」のブロガーさん達の評判がいいので読んでみたいと思っています^^ 削除

2009/1/6(火) 午後 4:05 ねこりん 返信する
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琉球版のイケパラか、ベル薔薇かって感じで読み始めましたね。
でも、ねこりんさんの記事を読んで、奥が深いなって感じました。
私も、真美那が好きでしたねww「泣いちゃう」とかって…ププッ ( ̄m ̄*)
こちらからもTBさせてくださいね♪ 削除

2009/1/6(火) 午後 9:32 チュウ 返信する
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>チュウさん
イケパラは見てないですが、ベルバラなら…w
男装の麗人となって自分の国に全てを捧げているところや、本当に大切な人との思いを貫いたところなど共通点がありますね。 削除

2009/1/6(火) 午後 11:17 ねこりん 返信する
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首里城に物語の魂を入れるという点において池上さんは本当に素晴らしいお仕事をされましたよね。
なかなか知る機会のない歴史に埋もれた沖縄を知ることが出来て大変勉強になる一冊でした。
トラバさせて下さいね♪ 削除

2009/1/6(火) 午後 11:18 [ chi*on*ne*ao ] 返信する
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>ぐぅさん
歴史物は敷居が高い気がしていましたが、これほど壮大な物語を身近に感じさせ、すらすら読ませるのは驚きでした。
沖縄の皆さんはこの物語をどう読まれたのか聞いてみたいですね。 削除

2009/1/6(火) 午後 11:25 ねこりん 返信する
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ねこりんさんがおっしゃってるように 本の厚みの割に軽く読める本でした。
聞きなれない地名や役職名 登場人物の名前に まるで異国の物語のようでしたが この歴史も日本の歴史へと繋がってるんですよね~。
歴史小説の面白さ 奥深さを十分堪能できましたv
こちらからもトラバさせていただきます^^ 削除

2009/1/7(水) 午前 0:58 tammy 返信する
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>tammyさん
この物語を窓口に、他の歴史物にも挑戦してみようかと思い始めました。沢村凜さんの「黄金の王、白銀の王」とかどうかな~と思っています。 削除

2009/1/7(水) 午後 9:27 ねこりん 返信する
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先に読まれた方たちの感想があまりに大絶賛であったために過度に期待しすぎたのがいけなかったのかもしれませんが自分としてはあまりに同じような浮き沈みを繰り返す展開にちょっと退屈してしまいました。でも沖縄・琉球王国の描写は素晴らしかったです^^ 削除

2009/1/7(水) 午後 10:52 hayaton 返信する
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>はやとんさん
私も、予想していたのとはちょっと違うなと思いました。
でも、私のように歴史物をあまり読まない人にとっては、親しみやすい内容だったと思います^^ 削除

2009/1/7(水) 午後 11:55 ねこりん 返信する
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話題の「テンペスト」、ふむふむこんな風なのですね!
あらすじを聞いた感じ、ちょっと「彩雲国物語」(ご存知です?ラノベなんですが^^;)に似てるせっていだなあと思っていたのですが、やっぱりちょっとそんな感じかしら?
気長に順番を待ちま~す(笑)
あ、遅ればせながらあけましておめでとうございます!
今年もねこりんさんの記事を楽しみにしています^^
どうぞよろしくおねがいしますね♪ 削除

2009/1/8(木) 午前 8:28 ラブリ 返信する
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>ラブリさん
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします^^
彩雲国物語」は名前だけは知ってますが、読んだことはないです。確か漫画化もされてましたよね~。
こういうタイプの話を読んだことがなかったので、新鮮な感じで読めました^^ 削除

2009/1/8(木) 午後 8:19 ねこりん 返信する
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確かに壮大な構想のライトノベル(あるいは漫画)でしたね(苦笑)。でも、その軽さが読み易さにつながったのかな、と思いました。とっても面白かったです。沖縄行って首里城見たい~。 削除

2010/1/16(土) 午前 7:35 べる 返信する
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>べるさん
確かにとても映像的な感じがしましたね。全編きらびやかで極彩色が目に浮かびます。大河ドラマとか映画とかに向きそうですが、莫大な制作費がかかりそうですね^^; 削除

2010/1/16(土) 午後 8:10 ねこりん 返信する