さがしもの  角田光代

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読書が好きな人なら、宝物にしたい本との出会いや、本にまつわるエピソード、忘れられない思い出が必ずあることでしょう。
この本を読むと、そんな昔のことを色鮮やかに思い出してしまいます。

やはり一番心に残るのは「ミツザワ書店」です。うず高く積まれた本に囲まれて、商売気もなく、売り物の本を読みふけるおばあさんのいる、小さな本屋。主人公は昔そこで万引きをし、それが忘れられずに、作家としてデビューしたのをきっかけに代金を返しに訪れます。そこで会ったのは…。
本屋の跡取り息子と結婚して、自分の好きな本ばかり注文して片っ端から読んでいたおばあさんはきっと幸せだったのでしょうね。
「だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう」東京へも外国へも行ったことがないおばあさんの世界への扉。主人公にとってもミツザワ書店は世界への扉でした。

私も子供の頃は今のような大手のチェーン店の本屋はなく、個人経営の本屋しかありませんでした。そのうちの一つの本屋には無愛想なおじさんがいて、立ち読みをしていると水をまきに来ることも^^;ふっさふさのペルシャ猫がいて、店主のように堂々と歩いていたのを思い出します。

あとがきのエッセイ「交際履歴」を読むと、角田さんの子供時代が私のとよく似ているので驚きました。私も、家にいる時は本を読んでいることが多く、おもちゃよりも本ばかり買ってもらっていました。本屋に連れて行ってもらうことは何よりも喜びでした。読書家の母と祖父の蔵書がある家の書庫で、子供にはあまりよく理解できない「星の王子さま」に出会ったことも…。
「本の一番のおもしろさというのは、その作品世界に入る、それに尽きる」
読んでいると時間を忘れる、どこにいるか忘れる、話しかけられても気づかない…そんな経験ありますよね。今でも子供時代と同様に、そういう経験ができることは本当に幸せです。
「本は人を呼ぶ」という言葉にも共感しました。派手に宣伝されているわけではないけれど、ふと足をとめて手に取ってしまう、そんな本との出会いも素敵です。

「旅する本」「彼と私の本棚」「引き出しの奥」も心に残る話でした。
本との温かい思い出を持つ人に、またこれからもそんな思い出を増やして行きたいと思う人におすすめの本です^^