白夜行  東野圭吾

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東野さんの作品について前から書きたかったのですが、すごいと思う数々の作品の中で、今のところこれに勝る作品はありません。実は、ドラマを見たあとすぐに読んだのですが、これは絶対に本が先でした…;;

小説では桐原亮司と唐沢雪穂という二人の人生が別々に語られます。二人の周りには様々な事件が起き、その事件の背後にこの二人がいるのではないか…ということが暗示されますが、それがはっきりと書かれることは終盤になるまでありません。しかも、物語の中で二人が実際に会ったり電話で話をしたりというようなシーンも、全くありません。わずかに提示される内容で、二人の間に何か関わりがあるということが感じられるだけです。ただ一人、二人に関わる過去のある事件を担当した刑事笹垣だけが、一連の事件に二人が関わっているのではないかと思い、追い続けます。

二人の心理描写を極力排して、事件と、彼らの周りにいる人々の心情を描写することでかえって二人を浮かび上がらせています。あたかも輪郭だけで描かれた絵の外側を塗りつぶすことで中の絵が白く浮き上がってくるかのようです。
ラスト近く、雪穂の心情が唯一表れている「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。」から始まる台詞で、「お互いの存在だけが人生を照らす太陽だった」ということが分かります。本当の太陽の明るさを感じることなく、生きていく二人。だから「白夜行」なんですね。すべてが明らかになったあとのラストシーン、雪穂の心の中にはどんな思いがあったのでしょうか。

ドラマは、原作で最後になるまで分からなかった、「二人にはどんな関わりがあるのか」「二人はなぜ犯罪を犯したのか」ということを、なんと一番最初に見せてしまいます。そして、小説で全く語られなかった二人の内面と関わりを中心にして描いています。事件の背後で、二人の間にどんなことがあって、どんな会話を交わしたのか、どんな気持ちだったのか…それが明らかにされます。このドラマをミステリーとせずに、二人の心のつながりを中心に置いた内容にしたのはなかなかの発想の転換だと思いました。

でも、ドラマを先に見てしまったために、原作をミステリーとして読むことができなかったのがとても残念です。内容が重く、しかも9時台の放送だったため視聴率は上がらなかったようですが、原作をよく読み込んだ良質なドラマだったと思います。ただ、原作と同じように、クリスマスの夜のシーンで終わってほしかったです。
あと、柴咲コウの歌うテーマ曲がドラマにぴったりで、この曲を聞くたびにドラマのことを思い出しました。