魔王  伊坂幸太郎

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自分の思ったことを人にしゃべらせることのできる「腹話術」という能力をもった青年と、別の能力をもった弟が、カリスマ的な指導者に対峙していきます。

グラスホッパー」のような、動きのある話だと思っていたのですが、全体的に淡々とした雰囲気で驚きました。
「魔王」では、指導者である犬養が、実際に悪事を働いたことが描かれているわけではありません。大衆を動かす力をもった犬養の言葉に安藤は「ファシズムではないか」と漠然とした不安を持ちます。扇動された人々が、だんだんと過激な行動を起こすようになり、世の中が不穏な方向に動いているということを確信した安藤は、自分の能力を使って、犬養を権力の座から落とそうと考えます。
大衆の心理が安易に流されることの怖さを感じました。安藤の口癖の「考えろ 考えろ」は、そういう波に乗らずに自分で考え、そして行動しろ、ということだったのではないかと思います。「呼吸」で、弟は兄の心を受け取り、静かに体勢を整えて時を待ちます。

犬養が用いた宮沢賢治の詩は「生徒諸君に寄せる」という詩の一節です。宮沢賢治の詩といえば、「雨ニモマケズ」「永訣の朝」ぐらいしか知りませんでしたが、この詩の全文を読むと、その鮮烈なイメージにさらに驚きます。本の中でも語られていましたが、この詩を読んだ若者たちが、自分の未来に思いを馳せ、背筋を伸ばすような気持ちになるのは、間違いないでしょう。私も「高校生の時に読みたかった」と思ってしまいました。この詩を、大衆を扇動するために使うというアイディアはすごいと思いました。

yahooの伊坂さんのインタビューを読んで、「魔王」という題名が、伊坂さんの思う「強い物」を表すイメージだったことや、シューベルト「魔王」とは直接関係なく、奥さんの意見を聞いてあとづけで入れたことなどを知って、なかなかおもしろかったです。

マンガ「魔王」は、原作とは違い、エンタテイメント性が高く、動的なものになっています。メインの登場人物はすべて十代、原作の政治的駆け引きは「新都心計画」をめぐるものに変更されています。また、犬養のカリスマ性や悪の部分が強調され、分かりやすくなっています。
グラスホッパー」の登場人物の「蝉」や「鯨」「スズメバチ」が登場し、安藤に関わってきます。「グラスホッパー」での名台詞もばんばん出てくるので、両方の作品を読んでからマンガを読むのが正解です。原作に出てきた千葉は、4巻までには出てないので、これからでしょうか。私は「蝉」がお気に入りです^^