海を失った男  シオドア・スタージョン

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スタージョンは「奇想コレクション」の「不思議のひと触れ」を読んでいましたが、この「海を失った男」は「不思議の~」よりもかなり個性の強く出た作品集だと感じました。「不思議の~」の方は入門編といった感じです。最初どちらを先に読もうか迷っていたので、やはり「不思議の~」からで正解だったと思いました。

「ミュージック」
彼にだけ聞こえる音楽は、死のモチーフを調べに乗せて奏でられます。短くも印象的な物語です。

ビアンカの手」
手にのみ執着するフェティシズムを描いた作品です。あくまでも手が主体であり、それ以外の部分は単なる付属物のようにしか描写されていないのが怖いです。ラスト、男にとってはそれで幸せだったのでしょうね。

「成熟」
ホルモンの分泌異常のために、幼児性と多彩な才能を合わせ持った青年と、彼の主治医である女性の関わりを追った作品です。人間の成熟とは何なのか、ということを深く追求していて、スタージョンなりの解釈がされています。

「シジジイじゃない」
一目惚れをした女性とつきあい始めた男の周辺に起き始めたおかしな出来事。幽霊のようにつきまとう首だけの男の言う「シジジイ」とは?
「シジジイ」の意味と、ラストの展開に驚かされます。

「三の法則」
三つで完全なエネルギー生命体は、地球人が汚染されているのを発見します。何とかしようと地球人の中に入り込みますが…。
生命体の相談と、人間の三角関係が並行して語られたユニークな内容です。この恋愛沙汰を生命体がどんな方向に持っていこうとしているのか…その思惑が気になりました。

「そして私のおそれはつのる」
不思議な力をもった老婦人に魅入られた少年は、彼女からその力を与えてもらうことになったのですが、他の女性との恋愛が、老婦人との関係に変化をもたらすことに。
結局老婦人も、欲するところは普通の女性と変わりなかったということですね。

「墓読み」
妻の墓に訪れた男は、「墓読み」と称する男から、墓の周辺の様子から故人のことを知る方法を学びます。妻にさんざん悩まされた男は、口数少なかった妻のことを知りたいと真剣に取り組むのですが。
墓の読み方を身につける過程で心の平穏を取り戻し、自分が足りなかったことに気づく男の心情がしみじみと描かれて心に残ります。

「海を失った男」
頭と片腕だけを残し、砂に埋まった男は、かつての海での出来事を思い出します。海の非常に美しいイメージと、恐ろしいイメージが幻想的にしかも鮮やかに浮かび上がります。

特に心に残ったのは「ビアンカの手」「成熟」「墓読み」「海を失った男」です。
読み終わって思うのは、とにかく「濃い」ということです。テーマの掘り下げ方が尋常でないし、テーマに向かう過程がまた一筋縄で行かない感じです。こういう作品は嫌いではないですが、読むとすごく考えてしまうので疲れますね^^;手軽にスタージョンの作品に触れたい方は、奇想コレクションの方をどうぞ。「輝く断片」もありますが、これは未読なので、どんな感じなのでしょうね?