ハンターズ・ラン  ジョージ・R・R・マーティン G・ドゾワ D・エイブラハム

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SF作家三人の共作です。ドゾワによる原案が出されてから、マーティンが参加して交互に執筆、そしてエイブラハムが参加して長編にまとめられるまで何と二十数年の歳月が経っているそうです。それだけの時間を経ただけのことはある力作です。「本の雑誌」の2010ベスト10第2位に選ばれています。

ラモン・エスペホは地球から植民地惑星サン・パウロに移住してきた採掘師です。腕は良いのですが、お酒を飲んではケンカをする荒くれ者です。いつものように酔っぱらっていたラモンは、エウロパの大使とケンカになり、刺し殺してしまいます。身の危険を感じたラモンは追っ手を避けて辺境の山奥に逃げ込みますが、そこに隠れ住んでいた異種族の囚われの身になってしまいます。異種族から、逃げ出した人間の捕虜を追うように言われるのですが…。

始めは荒くれ者らしい言動に眉をひそめながら読んでいたのですが、異種族のマネックとともに逃亡者の追跡を始めてから俄然面白くなってきます。マネックとは生体でできたつなぎ紐「サハエル」でつながれ、それによって意志を通じたり懲罰を受けたりします。面白いのはサハエルを通じてマネックの感情がラモンに流れ込み、マネックの思いやトラウマなどを自分のことのように感じるようになるところです。そのためラモンはだんだんと深く考え、内省的な面を見せるようになります。最初は殺してやりたい、と思っていた相手に、同情や共感など複雑な思いを抱くようになるところは読み応えがあります。マネックが使う異種族語は、わざと一部がその言葉のままになっています。その意味が少しずつ読者に伝わるようになっているところや、マネックとの心理的なつながりを表すために効果的に使われているのが巧いです。

中盤で驚くべきことが明らかになり、マネックと別れたラモンは今度は逃亡者と行動をともにします。ラモンはだんだんと相手の信頼を得て、逃げるために力を合わせます。筏で河を下るシーンは迫力満点です。ラモンはある理由から逃亡者に自分の正体を気づかれまいとするのですが、それがこんな展開になるとは…衝撃でした。ラモンの心の痛手には計り知れないものがありますね。私達には絶対に分からないことでしょうが。逃亡者との交流は、マネックとはまた別の意味で心に残りました。

マネックや逃亡者とのサバイバル生活や、この惑星の不思議な生き物達の描写は冒険物好きにはわくわくさせられます^^匂いや色彩についての描写が多いのも特徴です。

ラストはそれまでの展開とは違い、なかなかスカッとさせてくれます^^ラスト三行に出てくるある言葉にも心が温かくなります。
ドキドキの展開、気持ちの良い読後感、難しい理論や科学用語はほとんど出てこない分かりやすさは、SF苦手な人にもおすすめできる内容です^^