放課後探偵団(書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー)

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東京創元社からデビューした新人5人の学園ミステリを集めたアンソロジーです。日頃なら学園ものはあまり食指が動かないのですが、「叫びと祈り」の梓崎優さんの作品が載っているということで、読んでみたいと思っていました。
どれも、殺人事件など殺伐としたものはない、身の回りで起きたちょっとした謎や事件を扱っています。

「お届け先には不思議を添えて」  似鳥鶏
映像研究会の古いVHSテープをDVD化することをOBの福本から提案された葉山たちは、喜んでその提案に乗ることにします。しかし、無傷だったはずの送ったテープのうち、何本かがダメになっていることを知らされます。どうやら、都合の悪い映像と思った人間が故意にしたようなのですが…。
テープの内容については予想通りでしたね…(笑)でも、テープの送り方とす○○○についてのトリックはよくできていたと思います。ぶくおふでよく見かけていた「理由(わけ)あって冬に出る」のシリーズだそうで、登場人物が生き生きとして楽しそうな雰囲気がいいです。

「ボールがない」  鵜林伸也
百球あった練習球のたった1個が見つからないため、監督から残って探すことを言いつけられた野球部員とマネージャー達の、ひたすらボールの行方を推理する物語です。
その一球に特別な意味合いを持たせたところは良かったと思います。でも、ラストには「?」確かノックの数からボールの数はきちんと確認できてたはずじゃなかったですか…?それに、グランド周辺をどんなに探してもなかったはずのボールがどこから見つかったか教えてほしかったですね。

「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」  相沢沙呼
バレンタインデーにみんなの机にあったはずのチョコレートが教卓に積み上げられるという事件が起こります。ほとんどは持ち主の元へ返されましたが、いくつか持ち主不明の物がありました。須川はクラスメートの小岩井と織田とともに持ち主を探します。
バレンタインデーにふさわしい、かわいらしいお話です。須川と酉乃との関係も初々しくていいですね~^^ストーリーに直接関係ないですが、作者が凝っているというマジックのシーンが彩りを添えています。

「横槍ワイン」  市井豊
人の話をただ聴いてあげる「聴き屋」をしている(しかも無料。趣味…?)柏木は、後輩の津田に頼まれて、映画同好会の撮影に参加するメンバー集めに協力します。それが縁で同好会と一緒に今まで撮った映画を見る会に参加しますが、そこで、津田が思いを寄せる大葉がワインをかけられるという事件が起こります。
言葉の聞き間違い、ワインをかけた理由など、ちょっとムリかな~という気が^^;誰がかけたかも見えない暗がりの中、○○○をごまかすことなんて簡単なような気がします。真相よりも川瀬の突拍子もない推理が面白かったです。  

「スプリング・ハズ・カム」  梓崎優
鳩村は15年ぶりの高校の同窓会に参加します。タイムカプセルの中にあった無記名のメッセージに、卒業式に放送室がジャックされ、別の曲が流された事件の告白が書かれていました。鳩村を含む放送委員の元メンバー達は、放送委員の中に犯人がいると考えて推理を始めます。
私は33歳という年齢に注目して、○○が犯人なんだろうと思って読んでいたのですが、その推理もちゃんと出てきてました^^;様々な脱出ルートや、タイミング良くCDを流す方法を一つ一つ検討することによって真相を導き出している構成はさすがです。そして最後の大仕掛け。慌てて始めから読み直してしまいました。するとあちこちに伏線が…やられました。梓崎さんの作品が素晴らしいのはトリックだけでなく、物語にしみじみとした叙情が感じられることです。「叫びと祈り」も最後の「祈り」まで読んで、物語の持つ意味合いに感銘を受けました。
次はカンボジアが舞台の長編だそうです。今からとても楽しみです^^

サークルや部活、恋愛など、いかにも学園ものらしい雰囲気満載でしたが、意外と楽しめました。梓崎さんの作品が突出していますが、相沢さん、似鳥さんの作品も良かったです。