パイの物語  ヤン・マーテル

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動物園経営者の一家がインドからカナダに移住する時船が転覆し、生き残った少年パイがベンガルトラとボートで漂流する物語です。

もうすぐ映画公開ということで今TVで宣伝をしていますが、そう言えばこの本持っていたな…と私設図書館から引っ張り出してきました。当時はシャマランが監督をするという話だったみたいですが、結局アン・リーが監督することになったのですね。

始めはパイの生い立ちと、動物園の動物との関わりが描かれます。ジェラルド・ダレルの動物記を読むような感じで、生き物好きにとってはなかなか楽しいパートです。
その後、宗教についてのパイの特異な考え方がかなり長く語られます。インド人である彼が3つの宗教を違和感なく受け入れていること、それが長い漂流生活の間彼を支える精神的な支柱だったのかも知れません。

そしていよいよ、メインである漂流記です。乗っていたのが対馬丸という日本の船で、実際に沈没した対馬丸の名前をもらったのかも知れませんね。
最初はトラだけでなくハイエナやシマウマ、オランウータンもいたのに、次々と生存競争の中で死んでいき、ついにトラとパイだけが残ることに。
動物園の大切な動物ということでうっかり助けてしまったトラですが、気がついてみればそれはとてつもない脅威でした。

最初はトラを殺すという考えだったのが、だんだんとトラを手なずけ、共存する考え方に変わっていったのが興味深いです。ボートに積まれていたサバイバルのための品物を効果的に使い、自分もトラも生きられるように工夫していく様子はわくわくさせてくれます。
飛び込んでくるトビウオの群れ、イルカやウミガメ、クジラとの遭遇など、自然の様子も生き生きとして読み応えがあります。

手なずけたと言ってもやはり凶暴なトラ、いつ襲ってくるか分かりません。でも、孤独よりもトラといることに生きがいを感じるパイの心情が切ないです。
トム・ハンクスの「キャスト・アウェイ」という映画で、積み荷にあったバレーボールを友人のように思って心の支えにしていたことを思い出しました。
トラが最初から人間と同じ名前で呼ばれているのも、パイのこういう心情に合わせてのことなのでしょう。

終わりの方で出てくる謎の島での冒険ではかなりファンタジーの様相が強くなります。
助けられてからの日本人の係員とのやり取り(この日本人が腹立たしいのですが)では、何が本当なのか分からないような書き方がわざとされています。
サバイバル部分がリアルなだけに、ラストの展開は意外でした。
でも、やはり「動物の出てくる物語」の方が本当だと信じたいですね。

第二部の最後の、力強く美しいトラの描写、野生動物らしいあっさりとした別れ。パイと同じように、読んでいる自分もトラに魅了されていたことに気づくシーンでした。

映画は3Dで映像が素晴らしいという噂です。機会があれば劇場で観てみたいです。