死者のための音楽  山白朝子

イメージ 1 有名作家の覆面ということで話題でしたが、これはもう間違いなくOさんだと思います。この発想、怖いけれど、はかなさともの悲しさが同居するような雰囲気… 今まで読んだ彼の作品に通じる物がありました。
特に印象に残ったのは「井戸を下りる」「黄金工場」「鳥とファフロッキーズ現象について」です。
「井戸を下りる」は、父親が自分の子ども達に、若い頃の話を聞かせるというものですが、「井戸の底に住む女」から安部公房の「砂の女」を思い出しました。あれは砂に穴を掘って、その底に住んでいる女が、迷い込んで来た男をとらえるという話でした。(まるでアリジゴク…)
井戸の中に住んでいる女と恋仲になった男が、井戸の中をどんどんと進んで不思議な空間に出てしまい、暗闇をさまようことになるところがこわいです。

「黄金工場」は物を黄金に変える廃液をとんでもないことに利用する家族の話。恐ろしい結末が待っています。彼の赤い表紙の短編集に入れても良いような作品です。

「鳥とファフロッキーズ現象について」は、昔話の恩返しをする動物の話のように、必要とする物を持ってくる鳥の話です。その行動は徐々にエスカレートして…
語り手の父親に助けられた鳥が、飛ぶ力を奪われたのに最後まで家族を思って行動するところがいいですね。でも野生には人間の常識は通じない恐ろしさが感じられました。
ファフロッキーズとは、空から魚などあり得ない物が降ってくる現象だそうです。私は、竜巻に巻き上げられたものが降ってくるんだと思いますが、どうでしょう?

この本は装丁がすばらしいです。誰かと思ったら祖父江さんでした。さすがですね。スピンは女の人の髪の毛みたいな感じの糸が3本です。かなり長いので読むとき当たってくすぐったいです…^^;

紹介しなかった他の作品もそれぞれ味わいがある作品です。「幽」は読んでないけれど、まだ山白朝子名義でずっと書いてるのでしょうか。また他の作品も読んでみたいです。