鬼の跫音  道尾秀介

イメージ 1

古本屋に出るのを待ちきれず、とうとう新刊で買ってしまった本です^^;
私が道尾作品にはまった「向日葵の咲かない夏」に通じる、黒さと狂気の交錯する短編集です。

「鈴虫」
妻の元恋人を埋めている男の姿を見ていたものは…。
鈴虫の行動についてのエピソードと事件の絡め方がうまいですね。
「わかってた」のは、男がしてきた行動が破滅へと向かうことなのでしょうか。

「犭(ケモノ)」
家族の中で疎外感を味わっている青年が、偶然壊した椅子に書かれていた受刑者のメッセージを読んで、その意味を突き止めようとします。
メッセージの意味もさることながら、ラストには驚愕!謎を解明して、明るいラストに向かうと思わせておいて…ブラックです。本当のけものは誰だったのか…モンシロチョウの扱いでその後の展開を匂わせるあたり道尾さんですね~。

「よいぎつね」
友達にそそのかされ、祭りの夜にひどい事件を起こしてしまった男の行く末は…。
夢なのか現実なのか分からない展開に思わせながら、着地点ははっきりしている終わり方が見事です。しかも、次の「箱詰めの文字」に解決編?が載っているというおまけつきです。

「箱詰めの文字」
泥棒に入った青年が返しに来たのは、自分の部屋にはなかった招き猫でした。その中には謎のメッセージが。
これは伏線が最後にぴたぴたと収まる驚きが感じられます。でも、青年の行動だけが謎ですね^^;

「冬の鬼」
一週間の日記を過去に遡りながらたどっていく形で書かれています。これは道尾さんがブログに書かれていたように、某古典作品が下敷きになっています。古典作品と違うのは女性が狂気に走っている点ですね。達磨の意味を考えると怖いです;;
冒頭の日記の意味は、「鈴虫」と共通のものが感じられます。

「悪意の顔」
これだけ、「野性時代」で読んでいたのですが、改めて読み返すと技巧の素晴らしさが際だつ作品です。
人や、その意識を中に取り込むというキャンバスは実在するのでしょうか…?二転三転する真相、ラストの黒さは「向日葵~」に近いですね。伏線にも唸らされました。

さすが道尾さん、と感じた短編集でした。虫や鴉で不安感や不吉さを表す道尾さんらしい表現や、幻想的な雰囲気、ミステリとしての鮮やかな手法を堪能しました。
道尾さんのブログから、Sに込められた意味を知ったのは得した気分です^^

野性時代」3月号の道尾さん特集を見逃していたので、Amazonで注文しました。本屋に頻繁に行けない時期ではあったのですが、地元の本屋ではどうやら速攻で売り切れてしまっていたようです。読むのが楽しみです^^