カリブ諸島の手がかり  T・S・ストリブリング

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アメリカ人の心理学者であるポジオリ教授が難事件を解決する中短編集です。
世界探偵小説全集の一冊で、ラストの「ベナレスへの道」の衝撃でかなり話題になった作品ですが、高いので買えませんでした;;でも、いつの間にか文庫になっていたんですね。訳者が倉阪鬼一郎さんで、帯には有栖川さんの推薦文があります。

舞台が植民地時代のカリブ諸島で、様々な人種及び、宗主国の文化と島本来の文化が混在する複雑さです。ポジオリが旅する島々で、人種ごとの国民性やその文化の多様性が生き生きと描かれていて、それがこの本の大きな魅力になっています。

ポジオリ教授は、非の打ち所のない名探偵とは違い、やや短気で名声欲もある、ごく一般的にいるタイプの人です。自分が解決したのではない事件が、いかにも自分が解決したかのように新聞に載ったのを見て、恥じ入るどころか、故郷の友人に送るために大量に買い込んだりします^^;絶壁を登る自分を下から支えてもらった時は、「これからは体操をしよう…」と心に誓うなど、クスッとさせられるところもあります^^

「亡命者たち」
ベネズエラの元大統領ポンパローネがオランダ領のキュラソー島に滞在している時、宿の主人が毒入りワインを飲んで死亡します。ポンパローネと宿の主人の間には、女性を巡って確執があったことが分かります。犯人はポンパローネなのでしょうか。
これがポジオリ初登場の作品だそうです。このワインの壜にはラベルはないんでしょうね…?壜についたある物だけが目印だなんて、犯人もけっこう危ない橋を渡ろうとしたものです。

「カパイシアンの長官」
ハイチ北部の都市カパイシアンの長官であるボアロンに招かれ、反乱軍の指導者であるヴードゥー教の呪術師と対決することに。
我が身の安全第一を考えるポジオリは、何とかして呪術師の元に行かないようにできないかとあれこれ言いますが、結局思いっきり乗り込むことになってしまいます^^;ラストあたりの戦闘の様子は迫力があります。対立する勢力同士の思惑に翻弄されるポジオリと、意外な犯人が見所です。

「アントゥンの指紋」
フランスの植民地であったマルティニーク島で起こった、銀行の金庫破りの事件を解明することになったポジオリ。金庫室の扉についた大物詐欺師アントゥンの指紋で、事件は複雑になります。
かなり大胆というか、この時代にしては変わった発想だったのではないかと思います。

クリケット
イギリス領だったバルバドス島の、クリケットクラブで起こった殺人事件を推理します。きっかり500ポンドの株の損失、お札についた青いしみから解明の手がかりをつかみますが、事件は皮肉な結末を迎えます。
作者のイギリスに対するイメージや、ポジオリの小市民的なところなど、興味深く読めます。

「ベナレスへの道」
トリニダード島の寺院に好奇心から一晩泊まったポジオリは、寺院で起きた花嫁殺人事件に巻き込まれてしまいます。
「クイーンの定員」に選ばれている驚くべき結末の作品です。ほんとに驚きました…。しばらく呆然としてしまったくらいです。この作品でかなりこの短編集へのイメージが変わってしまうかも。
事件の動機も他の作品とは一線を画しています。とにかくこの作品だけは読んでほしいですね。

本格の体裁はとってますが、あまり綿密な感じではなくて、ポジオリもけっこう勘で動いている気もします^^;
でもカリブ諸島の雰囲気と文化、ラスト一編の衝撃は、読む価値ありです^^