眠れなくなる夢十夜

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漱石の「夢十夜」が発表されてから100年が経ち、それを契機にして企画された小説新潮の連載をまとめた作品集です。漱石と同じように「こんな夢を見た。」で始まっています。でも私は、漱石の「夢十夜」は読んでいないんですよね…。でも、今回の作品集を読んで元を読んでみたいと思ったので、私のように思った人も多いかも知れません。

題にあるような「眠れなくなる…」というような感じではないのですが、どの作品も、夢と現実のあわいを行き来するような独特の雰囲気をもっています。黒澤作品の「夢」という映画は「夢十夜」の形を借りて、監督自身の見た夢を映像化したものですが、これを見た時に感じた不思議な気持ちを思い出しました。

特に印象に残った作品を挙げます。
「厭だ厭だ」 あさのあつこ
「厭だ、厭だ」が口癖だった妻。その妻を亡くしてから三年、主人公は不眠に悩んでいました。資産家である家に婿入りしてから、自分の意志を捨てて暮らしてきた男は、自分の過去を振り返ります。
夢か現かは分かりませんが、意外に前向きなラストが待っています。このまま新しい人生を生きられたらいいですね。

「指」 北村薫
薬にするため、砂の中に育つ茄子を取ってこいと眼医者の父から言われた息子は、海辺に向かいますが、そこで砂の中に見たものは…。
まさに取り留めのない夢のイメージをそのまま表したような作品です。特に意味がある感じではないのですが、雰囲気に惹かれました。

「輝子の恋」 小路幸也
死に際に、人生で失ったものを取り戻すことができると獏は言いました。それを聞いて新たな人生の岐路に立つことになったのですが…。
漱石の「こころ」を彷彿とさせるような、下宿屋の娘と下宿生の2人の若者との関係が、新たな人生では描かれます。ちょっとした驚きと、穏やかな幸福感に満ちたラストが印象的です。
どこかで読んだようなと思ったら、「七つの死者の囁き」と同じ獏が出てくるシリーズでした。前作よりこの作品の方が好きです。

この本には道尾さんの作品「盲蛾」も入っているのですが、嫌な気分になるイメージが多く好きになれませんでした。
帯や裏にあるように悪夢ばっかりかと思っていましたが、意外と明るい作品もあったように思います。