魚舟・獣船  上田早夕里

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ショコラティエの勲章」の方を先に買っていたのですが、もともとSFでデビューした作家さんということなので、こちらの作品集から読んでみることにしました。
タイトル作である「魚舟・獣舟」に最初から思いっきり引き込まれました。帯にあった「SF史に永遠に刻まれる大傑作!」というのも大げさではないと思います。

「魚舟・獣舟」
陸地の大半が水没した未来世界で、海上民として暮らす多くの人々。彼らの生活に大きく関わるのが、魚舟、獣舟という生き物たちでした。なぜ「舟」と呼ばれるのか、魚舟と獣舟はどう違うのか、この生き物たちの出自は?など、想像もできないような世界が広がります。最初は神話時代的な雰囲気も感じるのに、この世界を裏打ちしているのは、SF的な先進科学なのです。その相反する物を違和感なく融合していることに驚きます。
異形コレクション・進化論」が初出だそうですが、どのような形で進化が取り上げられるのか、それが明らかになった時の戦慄は…読んで確かめてみて下さい。

「くさびらの道」
寄生茸に体を寄生される奇病が発生し、被害が拡大しつつある日本。それによって死亡した人間は、幽霊になって現れると言われていました。
地方で被害が出ても、他の地域では危機感を感じていないところなど、新型インフルエンザの騒ぎを連想させます。主人公は地元にいた家族に被害が出て、否応なく巻き込まれていきます。
現象にきちんとSF的な説明がされているところは「魚舟・獣舟」と同じですが、人間的なドラマが前面に出ている作品です。

「饗応」
和風の美しいホテルに泊まることになった男を取り巻く状況とは…。
ショートショートです。和風から一気に変わるストーリーが見所です。

「真朱の町」
医療特区という実験都市に出没する妖怪達と共存する世界を描いています。先進科学と妖怪という取り合わせがユニークです。

ブルーグラス
音によって科学的な反応を起こし、結晶化して成長するオブジェ「ブルーグラス」。別れた彼女との思い出のこもったブルーグラスを、伸雄は海に沈めます。しかしその海域は立ち入り禁止区域に指定されてしまいます。閉鎖される前に伸雄はオブジェを探しに出かけます。
感傷的な話なのですが、ラストはすっきりとしています。海のイメージが美しいです。

「小鳥の墓」
この本の半分を占める中編です。火星という言葉から、デビュー作の「火星ダーク・バラード」とつながっているのかなと思いましたが、やはりそうでした。「火星~」の登場人物の少年時代を描いた作品だそうです。
少年は、犯罪がほとんどなく平和だけれど、情報や行動が制限される教育実験都市に住むことになります。そこで、「外」の世界と行き来する勝原に出会います。勝原は暴力的で、人の心を支配する力を持った少年でした。しかし、その奇妙な魅力に惹かれた少年は勝原と行動をともにします。
最初のエピソードから物語の行く先は分かっているのですが、少年がたどる運命の道筋がだんだんと決められた方向に向かって行くのを見ると、暗澹たる気持ちになります。ですが、勝原と少年の関わりはひりひりと痛い青春小説のようでもあり、読み応えのある作品です。

タイトル作は特に必読です。どの作品も、過去や現代のイメージを基本として、SFのガジェットが顔を覗かせるという趣向が印象的でした。そのため非常に作品世界に入りやすく、SFになじみがない人でもスムーズに読めそうな感じがしました。



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おぉ~やっぱりこれもおもしろそうだ^^火星ダーク・バラードを読んだので「小鳥の墓」はもちろん気になっちゃうんですが、表題作もなにやらいい香りが^^。空腹も良さげだけどSFもビビビっと! 削除

2009/7/12(日) 午前 2:16 チルネコ 返信する
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>チルネコさん
「火星ダーク・バラード」を先に読んでいたら、「小鳥の墓」はもっと楽しめるような気がします。読んでなくても、とても引き込まれる作品でしたが。 削除

2009/7/12(日) 午前 9:02 ねこりん 返信する
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ぼく的にはやはり「小鳥の墓」がいっとう秀逸でしたね^^。 削除

2009/7/12(日) 午後 6:52 beck 返信する
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>ベックさん
「小鳥の墓」というタイトルは、最初そぐわないような気がしたのですが、読んでいくとその重みが感じられて、なるほどと思いました。 削除

2009/7/12(日) 午後 9:34 ねこりん 返信する
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この方の作品は読後何か作品の中にそのまま佇んでしまうような余韻さえありますよね。火星~を読んだので「小鳥の墓」にある繋がりに痛々しさを感じましたが、やはり「魚舟・獣舟」の設定や世界観が大好きでした^^展開的にも楽しめて僕のなかでは白眉でした。TBさせてくださいー。 削除

2010/3/9(火) 午後 10:21 チルネコ 返信する
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>チルネコさん
タイトル作にはほんと驚きました。こういう発想ってどこから生まれて来るんでしょうね?どの作品も独特の雰囲気があって、やはりSFでデビューした作家さんだなと思いました。
ショコラティエ~」はがらりと違った作品のようですが、こちらもそのうち読んでみたいと思っています。 削除

2010/3/10(水) 午後 6:08 ねこりん 返信する