ゆれる  監督 西川美和

長年ガソリンスタンドを営む家の兄弟。兄の稔は家業を継ぎ、温厚でまじめな人柄で、職場の人々にも慕われています。奔放な性格の弟の猛は家を飛び出し、東京でカメラマンとして成功を収めています。

母の法事のために久しぶりに帰省した猛は、稔が、昔の恋人だった智恵子と仲睦まじく話している様子に嫉妬し、智恵子を誘って関係を持ってしまいます。これは智恵子に嫉妬したわけではなく、稔にとられるのは嫌だ、という子供じみた感情から来ています。

次の日近くの渓谷に3人で遊びに行くのですが、吊り橋で稔と一緒にいた智恵子が転落死してしまいます。橋から離れた場所にいた猛は、落ちたところは見ていないと言うのですが…。

このあと少しネタバレありです。


兄弟の間だからこその複雑な感情がていねいに描かれています。
家に縛られ、気を使って生きてきた稔は自由に生きる弟を羨んでいました。その上、密かに想っていた智恵子が猛と関係を持ったことを知ってしまいます。
逮捕されたあと、稔がついに猛に向けて積年の不満を爆発させます。猛をののしり、つばを吐く香川照之さんの鬼気迫る演技には圧倒されます。
稔を弟として素直に励まそうとしていた猛ですが、思いもかけず稔の中に渦巻いていたどす黒い感情を知り、非常にショックを受けます。
裏切られたと感じた猛のとった行動は…。

わがままで自分のやりたいようにして来て、それが許されていることに何の疑問も抱いていなかった猛。どうしようもない人ではあるのですが、兄が自分を無条件に大切に思ってくれている、ということを信じ切っていたのです。弟としての甘えなのですが、何か憎めないものも感じます。
しかし、その後の行動はあまりに短絡的です。稔がそれを甘んじて受け入れるのは、智恵子への償いなのか、傷つけた猛への思いなのか…。

子ども時代の8ミリフィルムを見た猛は、稔がいつも自分に手をさしのべてくれていたこと、自分がいつも奪う側でいたことにようやく気づきます。

ラスト、バス停にいる稔に「兄ちゃん、家に帰ろうー!」と呼びかける猛。
それを認め、笑顔になる稔。その笑顔はちょうど来たバスに隠され見えなくなります。
その後稔がどんな行動をとるのかは、見る人の想像に委ねられます。
稔が過ごした日々と、猛の仕打ちを考えると、このまま別れてしまっても仕方ないと思います。でも、一瞬見せたあの笑顔が、家族としての絆なのでしょう。必死に呼びかける猛の思いが届いたのかも知れません。
二人の間で吊り橋のように揺れていた感情と信頼。もう一度取り戻すことができるのでしょうか。

香川照之さんとオダギリ・ジョーさんの演技がすばらしく、この二人あってこその映画だと感じました。