宵山万華鏡  森見登美彦

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京都の祇園祭宵山の夜に迷い込んだ人々を描いた連作短編集です。他の登場人物にスポットを当てることで同じ宵山の夜を別の角度から見ることができます。この物語自体がタイトル通り万華鏡なんですね。
遥か遠い京都の地で行われるこのお祭りのことをほとんど知らず、検索して写真を見ながら読みました。へえ蟷螂山ってこんなのだな~とか。ネットは便利ですね~^^でも実際に宵山に行ったことのある人じゃないと本当の雰囲気は分からないですよね。うらやましいです^^;

表紙がキラキラと輝いて、イラストもリンゴ飴や風車、緋鯉などが舞い踊り、華やかで祭りらしい雰囲気を醸し出しています。でもその表紙を取ってみると、何とも不気味な面々が…。祭りの光と影の両面を表したかのような装丁です。

宵山姉妹」
バレエ教室に通っている姉妹は帰り道に寄り道をして、宵山の通りを見て歩きます。妹は姉とはぐれてしまい、そこで赤い浴衣を着た女の子達に出会って一緒に露店巡りをするのですが…。
子供から見た祭りのめくるめく楽しさと、祭りの中で一人きりになった不安さとが、自分の子供時代を思い起こさせました。祭りから少し離れると、さっきまでと打って変わった静けさが寂しさとかすかな恐怖を抱かせるあの感じ…。宵山の迷宮のような路地の奥…何が待ち受けているか分からない不思議さが感じられました。

宵山金魚」
高校の同級生乙川に宵山を案内してもらうことになった藤田は立ち入り禁止の場所に入り込み、祇園祭司令部に連れて行かれてしまいます。
このノリ、まさにモリミー節。祭り?を演出する小道具の数々がすごいですね。ある一つの目的のためだけにここまでできる乙川って…変です(笑)それにしても超金魚って^^;見たいような見たくないような(笑)

宵山劇場」
宵山金魚」の舞台裏を描いた作品です。裏側ではこんな苦労があったんですね(笑)
思いがけず「夜は短し~」とのリンクがあって嬉しかったです^^なるほどあの舞台裏を支えていたのも彼らだったんですね。

宵山回廊」「宵山迷宮」
宵山の夜行方不明になった女の子。河野は娘に会うためにくり返し宵山の夜を訪れます。同じくその夜に迷い込んだ柳。河野の姪の千鶴と、柳のそれぞれの視点から語られた、表裏一体となった作品です。
こんな奇譚とも言うべき真面目で幻想的な作品も書けるのだなあ(失礼)…と思いました。
これにも乙川が出てきますが、ここでの乙川はまるで異界から来た謎の男のようですね。

宵山万華鏡」
宵山姉妹」での出来事を姉の視点から見た作品です。最後に今までのオールスター総出演という感じですね。万華鏡のようにくるくると様相を変える祭りのきらびやかさと不思議さをすべて詰め込んで物語は終わります。

やっぱり夏祭りの時期に読みたい作品ですね。でも、この本を読むだけで日常から離れてあの祭りの喧噪の中にふと立っているのではないか、そんな感じさえする一冊でした。