魔王 JUVENILE REMIX  伊坂幸太郎&大須賀めぐみ

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伊坂さん原作の「魔王」と「グラスホッパー」をリミックスした作品です。テーマは「魔王」ですが、それに「グラスホッパー」の登場人物を配して、非常にダイナミックな作品に仕上げています。ずっと展開を楽しみにしてきましたが、この夏ついに最終巻10巻が出ました。
漫画家の大須賀めぐみさんは、これが初めての長編連載で、実質的なデビュー作に当たるそうです。新人なのに、この構成力と画力はまさに天才と言っていいのではないでしょうか。ひさびさに漫画で興奮させられました。伊坂さんも大絶賛ですし、Amazonのレビューでも軒並み高得点を取っています。

自警団グラスホッパーのリーダー犬養は、そのカリスマ性を武器に大衆を扇動し、政治家となって新たな世界を作ろうとします。彼を信奉するメンバー達は、犬養のためなら殺人さえ行います。犬養をめぐる動きに危機感を感じた安藤は、人を思い通りにしゃべらせる「腹話術」の能力を使って、犬養を失脚させようとします。
原作と違いメインの登場人物はすべて十代、原作の政治的駆け引きは「新都心計画」をめぐるものに変更されています。ですが、「ファシズム」への対抗、また流されることなく自分の意志を持つことの重要性という原作のテーマは漫画でも生かされています。

静かな雰囲気さえ感じる原作の「魔王」に加わり生き生きと彩るのが「グラスホッパー」の殺し屋たちです。雇われて仕事をする彼らは犬養の側にも安藤の側にも立っているわけではありませんが、要所要所に現れて重要な働きをします。原作でもとても魅力的なキャラ達でしたが、漫画ではさらに個性が強調されて印象深いものになっています。特に「蝉」は2巻から登場し、パンクなキャラと鮮やかな活躍ぶりに、すっかりファンになってしまいました^^威圧感のある「鯨」ゴスロリ風の「スズメバチ」手口通り静かな「槿」愛らしい「劇団」の子ども達など、原作のイメージを損なうことなく描かれた彼らに感激しました。

原作では安藤の弟潤也が、10分の1の確率なら必ず当てることができるという自分の能力を使って資金を貯め、犬養と対峙するため静かに時を待つところで終わっています。しかし漫画では、犬養やその周辺人物との直接対決が描かれています。莫大な資金を惜しげもなく使い、殺し屋達を動かして「令嬢」を壊滅させる展開は爽快ですが、一方で復讐のために手を汚さざるを得ない潤也に悲壮感も感じます。
原作でも話題になった「本当の魔王は誰なのか?」ということにも切り込んでいて、漫画なりの結論をだしています。

途中から単なる一読者として作品を楽しむようになったという伊坂さんですが、ラストのアイディアを出したそうです。「モダンタイムス」で、潤也が犬養との共存の道を選んだらしいことが暗示されていますが、漫画でも、最後に犬養にプレッシャーを与えつつも、その行動を見守るという位置に立っていることに、好感を持ちました。 最後まで効果的に殺し屋を使っていることも素晴らしかったです。

今度蝉を主人公にしたスピンオフ作品の連載が始まるそうで、すごく楽しみです^^