SOSの猿  伊坂幸太郎

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遠藤二郞は、周囲の人間が発するSOSを敏感に察知してしまうことから、親類の引きこもりの青年眞人の「悪魔祓い」をすることになります。これが「私の話」。一方で、五十嵐真は、金額と発注数を取り違えた、株の誤発注の原因を調査します。これが「猿の話」。二つの話が交互に語られます。

新聞連載の時に、始めは真面目に読んでいたものの、違う話が交互に出てくるという構成と、連載が休みになったり、時には何日もあいたりということがあって話の内容がつかみにくくなってしまいました。でも、ブロガーさん達の評判も良いようなので、やはりきちんと本で読んでおこうかな…と思って、読んでみて良かったです。

2つの話をつなぐ重要な要素が「西遊記」の孫悟空です。「猿の話」では登場人物がいきなりサソリの化け物に変わったり、頭に角が生えたりするので、その荒唐無稽さについて行けない感じがしていたのですが、あとでこの話についての種明かしがされて、「ああ、なるほど~」と思いました。
この孫悟空はある人物の願望(暴力による解決)を表したものなのですが、「暴力はいつも悪いことなのか」という投げかけには考えさせられました。如意棒を振り回して悪人に天誅を下す孫悟空にはスカッとしてしまう気持ちはありましたし…。

眞人がよく行っていたコンビニ前で起きた交通事故、虐待を受けている子供、喫茶店で困っていた女性、そして株の誤発注と、関係のなさそうに見えるいくつかの事件が、最後につながり合う構成の巧みさはさすがです。
ダンボール箱のことまでちゃんと最後につながってるのが面白かったです。一生懸命やって達成感まで感じていた行動が肩すかしで、でも何だか晴れ晴れして…という雰囲気は伊坂さんらしいですね^^

「SOS」信号は、実際は信号として認識しやすいものとして決められたそうなのですが、「Save Our Ship」「Save Our Souls」という一般的な説の方がイメージ合ってますね。特に「Save Our Souls」というのはこの物語のテーマとなっているように、伊坂さんの想像力を刺激した言葉なのでしょうね。
SOSを発している人のために何かしてあげたい…と思う人は多いでしょうが、行動に移すことは難しいことです。それを実際に行動して、時には助けられなかったことで悩んでいた遠藤にはとても好感を持ちました。

こうやって通して読んでみると構成がよく分かったし、伊坂さんがこの物語で伝えたかったこともイメージできたように思います。新聞連載にはあまり向いていない内容だったのでは?とも思いますが、単に私が良い読者じゃなかったからなのかも^^;

ところで表紙は物事の「因果関係」と、SOSの必要な危機的状況を表しているのでしょうか?ユニークですね^^



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表紙がなかなかいいですよね^^
「暴力はいつも~」の台詞など、暴力と無縁でない作品を描かれて来た伊坂さんの新たな視点がありましたね。「らしさ」を保ちつつ。今、「助けてほしい」と思う事がない人間を探す方が難しいのかな、と思ったり。世界を見渡せばちっぽけな事なんでしょうけど。 削除

2010/1/25(月) 午前 0:49 ゆきあや 返信する
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>ゆきあやさん
そうですね、伊坂さんの作品にはいつも完全な悪や天誅を下す立場の人間が描かれてきましたね。今回はその判断の一部を読者に委ねているようにも感じました。
また、弱者や被害者の立場に寄り添った視点が温かかったですね。 削除

2010/1/25(月) 午後 6:27 ねこりん 返信する
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この作品をぶつ切りで読むのはやはり無理がありますよね。一気読みが正解かと。まあ、それでも西遊記のからみがわかりづらかったのですけど(笑)伊坂さんの良さと新しい模索部分のせめぎあいを感じますが、うまくまとめてくれましたね。 削除

2010/1/26(火) 午後 1:10 [ テラ ] 返信する
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>テラさん
なんで西遊記なの?ということは思いました^^;中国だったりイタリアだったりグローバルな内容でしたね(笑)
ラストまできちんと読むと、やはり今までの伊坂さんらしい話だったなと思いました。 削除

2010/1/26(火) 午後 6:49 ねこりん 返信する
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確かに新聞連載には最も向かないタイプの作品でしたね。これ、ちゃんと全部新聞で読み通した人いるのかなぁ。自分のSOSをキャッチしてくれる人がいるのっていいな、と思いました。今回は伊坂さんが伝えたいことがちゃんと伝わってきたので良かったです。 削除

2010/1/27(水) 午前 1:15 べる 返信する
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>べるさん
私も同じ事思いましたよ~。きっとみんな途中で分からなくなっただろうな~って^^;でも新聞連載って毎回イラストがついてるのでそれがちょっと楽しみでした。
遠藤のような人が身近にいると安心できますね^^ 削除

2010/1/27(水) 午後 11:12 ねこりん 返信する
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本作は新聞連載で読むには辛い作品に思えました。一冊の作品として楽しむべき作品ですよね。現実と虚構が合い舞う世界で、一つずつの出来事や人物が連鎖し一つの出来事を動かすというとても伊坂作品らしさを感じました。
トラバ返しさせて下さいね。 削除

2010/2/18(木) 午前 8:10 金平糖 返信する
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二つの物語が繋がった時 さすが伊坂さん!ってうなりました。
が・・・一冊で読んだ状態でも 私には難しいというか 心理学が敷居が高かった(^^;
新聞連載で読み切ったねこりんさん、すごいっ^^ 削除

2010/2/19(金) 午後 11:38 tammy 返信する
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金平糖さん
「猿の話」は連載中は特に意味が分からなかったです^^;数字嫌いなので「株」というだけでも何だか拒否反応が…でも、本として読んでみると、そんな難しい話ではなかったですね。 削除

2010/2/20(土) 午後 1:51 ねこりん 返信する
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>tammyさん
新聞連載の時は二つの話のつながりがよく分からなかったんです。もしかしたら大事な回を読み飛ばしていたのかも…^^;
私にとっての株の話がtammyさんにとっての心理学の話だったのでしょうか。でも、株も心理学もこの物語にとっては単にテーマを際だたせるための一要素で、難しく考えることはなかったように思います^^ 削除

2010/2/20(土) 午後 1:59 ねこりん 返信する
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過去にも未来にも通じる力を持ち魔王らと闘った孫悟空の目に世界がどう見えていたのか、「猿の視点」が楽しい本でした。デビュー作で「しゃべる案山子」を登場させた伊坂さんですから、孫悟空の登場にも違和感はありません。 削除

2010/4/20(火) 午前 6:32 りぼん 返信する
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>りぼんさん
孫悟空の果たしている役割と「暴力はいつも悪いことなのか?」という投げかけにははっとさせられました。
「オーデュボン~」の優午は大好きなキャラクターです^^ 削除

2010/4/20(火) 午後 7:02 ねこりん 返信する
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新聞連載では一話でも読み逃してしまうと、どうにもならないでしょうね(苦笑)なかなか凝った小説だと思いましたが、伊坂さんの工夫が伝わってきたし、彼らしさもちゃんとあって楽しめました。SOSに気づければ手を差しのべたいですが、まずSOSに気付くことに課題が残るわたくしなのでした(苦笑) 削除

2015/12/26(土) 午後 9:07 チルネコ 返信する
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>チルネコさん

これは特に読み逃してしまうと分からなくなるタイプの話だなあ…と^^;でもちゃんと読むととてもいい話でした^^
確かに、SOSに気づくこと自体難しいですね。少しでも気づける自分でありたいものです^^ 削除

2015/12/27(日) 午後 7:34 ねこりん 返信する