風とけものと友人たち  ジェラルド・ダレル

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学生の頃からずっと私を魅了し続けたコルフ島シリーズ。でも、今その全ては絶版で、手軽に読むことはできません。手元にあるのは1,2作目だけで、3作目のこの本は文庫化されず、特に手に入りにくい本になってしまいました。ネットオークションに出ることがありますが高すぎて買えず、いつの日か出会えることを夢見ていました。
でも、ついに、「他の図書館からの取り寄せ」で読むことができました^^つい最近までそのことに気づかなかった私って^^;

まず嬉しかったのが最初に一ページですがコルフ島内のカラー写真が載っていたことです。たったこれだけでも「今からコルフ島シリーズが読めるんだ…」とわくわく感がUPです^^
もう書き出しからして素敵です。
「その年の夏はとりわけ豊かだった。まるでこの島が特別の贈り物を太陽にさし出したみたいに、島全体が大量の花と果物にうずもれた。海がこれほど暖かくて魚に満ちていたことはなかったし、鳥たちがこれほど多くのひなを育てていたこともなかった。チョウをはじめとするさまざまの昆虫もかつてないほどにたくさん生まれて、野原がかすむほどに群れ飛んでいた。さくさくの、ピンクの雪のような果肉を秘めたスイカはものすごく大きく、まるで砲弾ほどの大きさにまで育ち、これが飛来したらどんな都市も粉みじんになるかと思われた。」
これを読んだとたん、たとえ外は木枯らしで足元はこたつでも、一気にギリシャの芳しい風が吹いてきたような気持ちになりました。ずっとずっと会いたかったこの本、ギリシャに行ったことはないけれど、「ただいまコルフ島!」と思わずにはいられませんでした^^

作者のジェラルド・ダレルさんは四人兄弟の末っ子です。長男は作家のロレンス(ラリー)・ダレル、次男のレズリー、長女のマーゴ、そして三男のジェリー。 父親を早くに亡くし、残された一家でコルフ島に移り住んだ5年間を描いています。小さい頃から生き物に興味があったジェリーは、自然に満ち溢れたコルフ島で良き師兼友人となったセオドア博士と出会い、ますますその知識と関心を高めていきます。
数々の生き物たちとのふれ合いと、ジェリーの膨大な生き物コレクションに迷惑を被りながらも協力してくれる家族たち、そしてユニークな友人たちがこの物語の主役です。

生き物についてのエピソードは、さすが動物学者になっただけあって、バラエティに富んでいてとても楽しいです。妊娠したネムリネズミをつかまえて育てる話や処分寸前の子犬11匹を救出して連れ帰ってしまった話など、端から見れば微笑ましいですが、家の中は大変だったことでしょう^^;ジェリーの動物にあきれかえるラリーは、「十一匹が少しですか?ここはだんだんクラフト・ドッグショーのギリシア支部という感じになってきた……これだけの雌犬が全て発情したら、マーゴの競争相手がそれだけ増えるってことですよ」と皮肉な物言いがおかしいです(笑)この頃ジェリーはわずか10才なのですが、ほとんどの動物の世話をきちんと自分でしていたようで、その熱意には感心します。

ラリーは友人が多く、さらに交際範囲が広がって、本人が知らない人まで家にやってくることもあります。しかもその人を呼んだ人まで誰か分からない始末です(笑)やってきたロシニョール伯爵は鼻持ちならないフランスかぶれで、フランス以外のものは徹底的にこき下ろす人間でした。家族みんなが大迷惑した伯爵とのてん末や、前の巻でもおなじみ、母のルイーズにご執心のクリーチ船長とのやりとりは爆笑ものです(笑)
他にも、人が良くて誰からも好かれたけれど、空中浮揚をやりたがるのが玉に瑕のジージーや、マーゴに夢中で、同じ歌をうんざりするほど歌いまくるアドリアンなど、変わった友人たちが勢揃いです。

また亡命していた国王がギリシャに帰還し、最初にコルフ島を訪れることになり、コルフ島すべてが歓迎式典のためにすったもんだの大騒ぎになる話も。国王の船が入り江に入ってきたら、ギリシャ国旗を大量に海に敷き詰めるはずだったのに、船を間違えて、肝心なときには旗は全部沈んじゃってたとか、おかしなエピソードには事欠きません^^;

とにかく全てが面白くて、気が利いていて、何だかきらきらしていて、こんな素敵なシリーズが他にあるでしょうか^^いえ、あるかもですが、私にとっては最高のシリーズなのです!
もしこのシリーズがすべて揃っている図書館が近くにあったとしたら、それはきっとすごく幸運なことだと思います。たくさんの人に、ぜひ素晴らしさを知ってもらいたいです^^

訳者の池澤夏樹さんのあとがきで、コルフ島が出てくるダレルさんの著書がもう一冊あり、それを訳すとタイトルは「ひらめのひらき」という奇妙な物になる、とあるのですが、結局これは訳されずに終わったのか、それとも他の訳者で別のタイトルになったのか気になって仕方ない私です。