パニックの手  ジョナサン・キャロル

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世界幻想文学大賞受賞作「友の最良の人間」を含む短編集です。「おやおや町」は中編ですが、他はかなり短い作品で、ちょっとした時間にも一編読み終われるのがいいです。

フィドルヘッド氏」
フィドルヘッドとは、「バイオリン頭」という意味です。友人の家に住む、おかしな名前の男に一目惚れしたジュリエットは、友人から彼についての秘密を聞かされます。
う~ん、いきなり来ましたね。フィドルヘッド氏の正体と、彼を繫ぎ止めるためにジュリエットが取ろうとする手段…予想もつかない展開とはこのことです。

「おやおや町」
主人公が雇ったビーニィは家を完璧にきれいにする有能な掃除婦でした。しかし彼女が「これはとっておく?」と聞く物の中には、明らかに以前に破棄した物が…。
この作品集で唯一の中編です。これもびっくりする展開です。私もビーニィの口癖「おやおや町!」が言いたくなるくらい^^;○がこんな風に存在するなんて、誰が考えるでしょう?最後の主人公の混乱も無理もないですね。

「秋物コレクション」
死を前にした男が、一流の洋服を買うことで自我を保つ話です。淡々とした筆致なのですが、男の心情が何ともやるせないです。

「友の最良の人間」
飼い犬の「フレンド」を守って、片足を失ったイーガンは、病院で重病の少女と出会います。フレンドと心を通じ合える少女が、イーガンに伝えた内容とは?
動物保護の視点と、人類への警鐘、という内容だと思いますが、私はこの作品集にある他の話の方が好きでした。

「細部の悲しさ」
主人公がある日出会った「木曜日」と名乗る老人は、彼女の息子の未来を見せます。未来を好転させる見返りに、彼女の絵を欲しがる老人の真意は…。
老人がなぜ絵を欲しがるのか、という理由が新しいです。キャロルっていう人は○に対して皮肉な視点を持っているんでしょうか?(○は「おやおや町」の○と同じ)

「手を振る時を」
愛する女性に別れを告げられ、彼女を思い切れない主人公の心情を描いた作品です。
彼女との思い出の場所を目にすることをつらく思うあまり、「なぜ、恋愛関係の消滅と同時に建物も消えないのだろう?」と思うあたり、男性の方が失恋のダメージが尾を引くというのはほんとかも、という気が^^;最後の最後まで彼女との復縁を願い、小学生が考えるような願い事をせずにはいられない彼を、誰か飲みにでも連れて行ってあげて下さい(笑)

ジェーン・フォンダの部屋」
何がジェーン・フォンダ?と思ったら、地獄の一室の名前でした^^;どうなんでしょう…普通の地獄よりはよっぽどいいと思うんですが。でも変な地獄があったものですね(笑)

「きみを四分の一過ぎて」
性的な面で倦怠期を迎えた夫婦が、刺激を求めて、架空の男の存在を介入させる話です。架空の男に嫉妬を募らせ、エスカレートしていく夫の心理が怖いです。

「ぼくのズーンデル」
世界に千頭しかいないという犬のズーンデル種。その犬には不思議な力がありました。
一種の侵略物で、SFと言ってもいいかも。

「去ることを学んで」
500本の葉巻を探す話を聞いた男は、聞き終わった後あることに気づき愕然とします。こういう風につながるとは思いませんでしたが…男がこの話を聞いて初めて自分のことに気づいたとしたら、ちょっと遅すぎる気もしますね^^;

「パニックの手」
列車で美しい親子連れに出会った男は、二人と話をして過ごすことに。おしゃべりな母親より、吃音障害を持つ娘に好感を持つのですが、突然母親は驚くべき行動に出ます。
最初の「フィドルヘッド氏」とつながるところのある話です。毅然とした態度を取る主人公に共感していたら、最後にそれって…単なる○○○○じゃないですか^^;

キャロルを読んだのはこの本が初めてですが、意外と読みやすかったです。日常の見えざる側面を垣間見させるような不思議な雰囲気の作品が多かったですね。「フィドルヘッド氏」「おやおや町」「手を振る時を」「パニックの手」が特に印象に残りました。
もう一つの短編集「黒いカクテル」も期待大です^^



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ディーヴァーの「ボーン・コレクター」を昨日読み終わったばっかりです^^タイムリー(?)ですねえ♪
地元図書館にこの小説はなかったんですが、ブックオフで捜索してみます^^ 削除

2010/1/21(木) 午後 8:29 [ 彰信 ] 返信する
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>彰信さん
今から読める、というタイムリー…ですか?(笑)
ブックオフだと「黒いカクテル」とペアで出てること多いですね。
短編集はこの二冊しかないみたいです。 削除

2010/1/21(木) 午後 11:38 ねこりん 返信する
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キャロルの短編集は読んだ事がないんですよ~。どれも面白そうですが、「おやおや町」が特に気になりますね^^「手を振る~」のねこりんさんの最後の言葉がなんだか面白いです^^
最近、絶版になっていた長編2冊を見つけたのでその後にでもコレを、と思っています^^また読んだら来ますね♪ 削除

2010/1/22(金) 午前 0:23 ゆきあや 返信する
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うわぁー僕も積んでるんですが、先に読まれちゃった(笑)キャロルの短編はまだ未読ですし、ねこりんさんの手ごたえもよかったようなので楽しみ^^ちなみに僕もゆきあやさんと同じく本書の他にあと二冊積んでます^^。 削除

2010/1/22(金) 午前 0:41 チルネコ 返信する
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キャロルの長編は全部読んだのですが、どちらかというと苦手な短編集は後回しにしていました。「フィドルヘッド」という名前は聞いたことがあると思ったら、『空に浮かぶ子供』の作中作ですね。主人公の映画監督が撮影しようとしている作品です。 削除

2010/1/22(金) 午前 7:32 りぼん 返信する
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おお、短編集読まれたんですね!実は自分も今朝「月の骨」を読み終えたばかりなんですよ~。記事は遅くなりますが(笑)
短編集も面白そうですね。短編は積んでもいないので、いずれ積みます。読めって?(笑) 削除

2010/1/22(金) 午後 2:07 [ テラ ] 返信する
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>ゆきあやさん
「おやおや町」のアイディアは変わってますよ~。よくこんなこと考えるなっていう感じです。「手を振る~」は特に変わったことも起きないんですが、主人公の悲嘆にくれる様子が気の毒なんだけど情けないんですよね^^;一人でいるのが良くないんだと思います^^;
絶版の長編、何だろう…気になります。 削除

2010/1/22(金) 午後 6:17 ねこりん 返信する
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>チルネコさん
キャロルの作品はだいぶ集まってきたので、ようやく読めて一安心です。「月の骨」というのはシリーズ物なんですね。どれから読んでも大丈夫なんでしょうか。 削除

2010/1/22(金) 午後 6:24 ねこりん 返信する
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>りぼんさん
フィドルヘッド氏」と「きみを四分の一過ぎて」が「空に浮かぶ子供」の一部らしいですね。映画作品だったんですか。完成度に驚きました。
短編集とても良かったですよ。私は今度長編にも挑戦してみますね。 削除

2010/1/22(金) 午後 6:36 ねこりん 返信する
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>テラさん
イムリーでしたね^^朝に本を読んでおられるのですか。私は朝は最も読めない時間です^^;通勤も車ですし。
短編はアイディアが面白いものが多かったです。わりによく古書店でも見つかるので、ぜひ読んでみて下さい^^ 削除

2010/1/22(金) 午後 6:42 ねこりん 返信する
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私は「フィドルヘッド氏」と「秋物コレクション」あたりが特に好きでした。ヘンですよね^^;「おやおや町」はちょっと長すぎたかなあ^^;「黒いカクテル」も早く読んでみたいな^^ 削除

2010/9/8(水) 午後 10:44 ゆきあや 返信する
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>ゆきあやさん
フィドルヘッド氏」にはほんとびっくりしましたよね^^;皮肉な物の見方が感じられる作品が多かったように思います。
「黒いカクテル」も面白そうですね^^ 削除

2010/9/10(金) 午後 6:29 ねこりん 返信する