天地明察  冲方 丁

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科学技術を発展させた偉人の話なら、伝記も数多いし、あちらこちらで目にします。でも、改暦を行った人や、日本の数学者について詳しく読む機会は皆無でした。この物語は、日本独自の暦法、貞享暦(大和暦)を世に送り出した渋川春海の生涯を描いたものです。新暦の作成ということがこれほど不断の努力と研究によって行われていること、そして、数学がその事業を大きく支えていることに感銘を受けます。

渋川春海のことは全く知りませんでした。元々は将軍の前で囲碁を見せる碁打ち衆だったそうです。和算の始祖である関孝和のことは名前こそ知っていたものの、その具体的な業績についてはほとんど知りませんでした。関孝和行列式をヨーロッパより先に発見しています。懐かしいです…( )の中に4つの数字が入ったあの式。円周率も11桁まで発見したそうです。
先週の「龍馬伝」を見ていたら、近藤長次郎三角関数の問題を解いてました。あの頃に三角関数は日本にあったんだな~と思いました。でもそれより前に高等数学の基礎は関孝和によって築かれていたんですね。

渋川春海関孝和の交流が実際にあったことなのかは分かりません。作者の創作のところも多いでしょう。しかし、塾に春海が張り出した問題に関が答えるということから始まった、顔を合わせないまま、お互いの存在を認め合う関係が面白いです。あの図形の問題は、この本を読んだ人で、実際に解いてみた人はいるのでしょうか。作者は当然解いてみたでしょうね。
関は春海の行った改暦事業を陰で支えたという設定になっています。同年齢で同じく数学に関心をもつ者として刺激し合う関係だったのは間違いないでしょう。

それまで八百年もの伝統があった宣明暦を退け、新たな暦法を打ち立てるというのは大変なことだったと思います。しかし、春海のほのぼのと温かい人柄、ずば抜けた才気とこつこつと積み上げる努力が多くの人を惹きつけます。水戸光圀までもが春海に魅了され協力者になります。これは史実にもあります。実際の黄門様はドラマのような人ではなく、この本にあるように剛胆な変わり者だったようですね^^;春海の周囲にいる人達は好意的で、魅力的な人物が多く、春海と彼らの交流は爽やかで読んでいて気持ちが良かったです。

貞享暦を完成させるまで多くの障害があり、支えてくれた人々との別れもありますが、春海が改暦への情熱を失わず、挑戦し続けることはわくわくした気持ちにさせられます。
この本は、春海や関を始め、多くの人々が一つの事に打ち込み、それを成し遂げることの素晴らしさを教えてくれます。やる気を失ったり落ち込んでいたりする時に読めば、きっと元気が湧いてくることでしょう。
天地明察」という言葉は、宇宙の全てを見通すような、そして清々しくきっぱりとしたイメージが感じられ、この物語にぴったりだと感じました。



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マルドゥックスクランブルも好きだし、時代小説も好きなので、昨年新刊出た直後に買いました~。
関孝和の天才っぷりに感銘をうけるところ、暦づくりに途中で挫折しかかるところなんかも人間くさくてよかったです。 削除

2010/6/10(木) 午前 8:01 あややっくす 返信する
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この作品をきっかけに数学者関連のノンフィクションを読み終わったばかりです。面識はあったようですが春海と関孝和の関係は本作とは結構違いました。けど、小説ですからね。読後感の良さ優先という事で(笑)神社の絵馬を見てきましたけど、後半に出てきた問題と似たような絵馬が残っていてちょっと嬉しかったです。勿論解けるわけが無いので最初からチャレンジなどしませんでした(笑)
改暦がこんな大事業だった事は考えもしませんでしたが、爽やかなキャラクターたちの挑戦は心躍るものがありましたね。 削除

2010/6/10(木) 午後 5:15 [ テラ ] 返信する
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あややっくすさん
買う価値はある本ですね。今回は借りましたが、いつか手元に置きたい本です^^
春海の人間性が良かったですね。ずっと春海を応援するような気持ちで読んでました。 削除

2010/6/10(木) 午後 6:36 ねこりん 返信する
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>テラさん
私も少しネットで見て、実際の二人は改暦を競うような関係だったのかなと思いました。
今でも神社に数学の絵馬があるんですね!見てみたいなあ…解く気はありませんけど(笑)
思ってもみなかったことがたくさんあって、自分が注目したことのない分野のことを分かりやすく教えてくれたこの本に感謝しています^^ 削除

2010/6/10(木) 午後 6:42 ねこりん 返信する
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すごく内容の濃い本で 読みながら ジワリと涙がこぼれたり 思わず声をたてて笑ったり・・・すごく充実した読書だったな~^^
本当に 読むと元気や やる気の出る本ですね。
私も図書館利用でしたが いつか手元に欲しい本です。
TBさせていただきます~ 削除

2010/6/10(木) 午後 8:39 tammy 返信する
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>tammyさん
まさに「好きこそものの上手なれ」好きでなくては続かないことでしたね。興味をもったことをとことん追求していく楽しさや喜びを感じることのできる素敵な本でした^^
手元に置いて、時々読み返したいですね^^ 削除

2010/6/10(木) 午後 11:29 ねこりん 返信する
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こんばんは。
久々に 素晴らしい本に出会えた思いです。
私も根っからの文系ですが、占星術は興味があります。
星座のことを、東洋では宿と呼ぶのも聞いたことがありました。
いくら素晴らしい暦でも、中国を基準にした暦は 日本では通用しない。
現在では至極当たり前なことでも、当時は考えられなかったのですね。
小説にはいろんなジャンルやテーマがあるけれど、やはりこんな、感動が味わえる本て いいですね。 削除

2010/7/7(水) 午後 9:16 [ 白玉 ] 返信する
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>白玉さん
歴史物だから…とか、なじみのないテーマだから…とか思って読まない人がいたら、迷わず読みましょう!と言いたい本です。
どんな物でも、その開発に尽力した人たちがいると分かってはいるけれど、こうやって改めて読むと感動しますね。
直木賞冲方さん、道尾さん、万城目さんのどなたかにとって頂きたいです。候補作、どれも好きなので。 削除

2010/7/8(木) 午後 9:18 ねこりん 返信する
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こんばんは~☆彡ホントに良質で充実した読書時間を過ごせたなぁと思える本でした。あらすじとか好き嫌いのジャンルなどの先入観なしで、多くの人に読んでほしいですね。個人的にまさに落ち込んでやる気を失っていた時期に読んだので、ねこりんさんのおっしゃる通り元気が湧いてきました。TBさせてくださいね♪ 削除

2010/8/3(火) 午後 9:42 TEA♪ 返信する
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>TEA♪さん
登場人物のことや、改暦についてもっと知りたくなる、知識欲を刺激された本でもありました。TEAさんも良いタイミングでこの本と出会えて良かったですね^^
冲方さんの本は初めて読みましたが、話題になった「マルドゥック・スクランブル」も気になる本です。 削除

2010/8/3(火) 午後 11:56 ねこりん 返信する
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カレンダーってあまりにもあるのが当たり前すぎて、作るのに先人達がどれほどの苦労をしたかなど、微塵も考えたことがありませんでした。私も本書で初めて渋川春海の存在を知ったのですが、今まで知らなくて申し訳ないという気持ちでいっぱいです。
トラバさせてくださいね。 削除

2010/11/1(月) 午前 11:07 金平糖 返信する
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金平糖さん
渋川春海のことをよく知っている、というのはごく一部の人だけだったのではないでしょうか。そういう人にスポットを当ててくれた冲方さんに感謝です^^春海のように、人の知らないところで尽力している人々のおかげで、今の世の中があるんですね^^ 削除

2010/11/1(月) 午後 7:58 ねこりん 返信する