ターミナル・エクスペリメント  ロバート・J・ソウヤー

イメージ 1

夏のSF祭り第一弾です。他の方が読まれていた「フラッシュフォワード」もすごく読みたいのですが、「ゴールデン・フリース」の次はこれ、と考えていたので当初の予定通りにしました。

医学博士のピーター・ホブスンは、臨死状態の人間の脳波を測定している時、電気信号が脳を横切って外へ出て行くのを目撃します。それを「魂波(ソウル・ウェーブ)」と名付けた彼は一躍、時の人になります。その存在を確かめるため、ピーターは自分の精神の複製(シム)を3パターン作りますが、そのどれかが殺人を犯します。

この事件はピーターの妻キャシーの不倫が原因です。元のピーターは不倫相手を憎んでも殺人までは犯しませんが、シミュレーションであるシムたちは道徳心を持ち合わせていないのです。
シムがネットを掌握して現実の殺し屋に殺人を依頼するあたり、実際にネットを通じて犯罪の共犯者を募ったり、自殺のメンバーを募ったりする事件を思い出します。
ピーターの苦悩がかなり強調して描かれているのですが、心理面を詳しく描くことで、シムの殺人や夫婦のその後にリアリティーを持たせているのだと感じました。

不死の精神である「アンブロトス」、死後の精神である「スピリット」、比較対象である未改変の「コントロール」。どれが犯人なのかを探るミステリの体裁をとっていますが、何か証拠を残しているわけでもなく、どれも基本はピーターなので似たような行動を取っています。だから、この人格ならどういう思考をするだろうか、というあくまで精神のレベルで推理することになります。読者が推理するのは難しいですね^^;私はたぶんこれだろうと勘で決めて当たりましたが…。結局真実はシムの口から語られるので、ピーターも自力で犯人を見つけることはできません。このあたりは不満が残るところです。

シムを消去しようとさまざまな方法を模索するあたりが一番面白いです。ネットに逃げてしまったシムを追い詰めるために最終的にとったのは驚くべき方法ですが、あっさりと書かれ過ぎていて、ちょっと物足りない気もしました。
3つのシムのうち、ある人格が育てている人工生命がだんだんと成長していくのが不気味だったのですが、その生命が目指すところを知ると、やはりシムはピーターなんだな、ピーターの願いを叶えたんだなと切ない気持ちになりました。

魂をテーマにしているだけあって内観的な描写が多く、「ゴールデン・フリース」で感じたスピーディさやユーモアは控えめです。でも、合間にたびたび挟まれるネット・ニュースは、一つの発見が大衆に与える影響を皮肉っていて面白いです。

さて次はやっぱり「フラッシュフォワード」でしょうか。他の方の感想を読むとこちらは気分爽快になれそうな作品のようですね。楽しみです^^