折れた竜骨  米澤穂信

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イングランドから三日の距離にあるソロン諸島の領主が殺されます。殺人者は暗殺騎士の魔術により操り人形である「走狗(ミニオン)」となり、自分の意志に反して凶行を行ったのです。娘のアミーナは病院兄弟団の騎士であるファルクとその弟子ニコラとともに父親の仇を見つけようとします。

米澤さんの新境地とも言えるミステリファンタジーです。久しぶりに読んだファンタジーでしたが、世界観が本格的な上、ずっとシリアスに話が進むので途中までは読みづらかったです^^;やっと惹き込まれ始めたのが第4章のあたりからです。巻末にある参考文献一覧を見ても、これが中世の文化について綿密に取材されたものであることが分かります。世界史好きの人には好感度大でしょう。登場人物が多く、特に最初の方はそれぞれがあまり特徴的な活躍をしないので、そこもなじみ難い一因かも。傭兵希望の一人であるスワイドが巨大な青銅人形を連れている錬金術師と聞いて「鋼の錬金術師」を連想したのは私だけでしょうか^^;

帯にもあるように、このファンタジー世界で、「推理」が通用するかというのが作品の重点のようです。私は解決編の前に犯人の予想がついたのですが、実際その通りでした。ある人物が犯人と対峙して言った台詞には「え?」と思いましたが、結局それも思っていた方向へ…。私が予想できたのは登場人物の描き方からで、きちんと論理的に推理したわけではありませんが^^;容疑者の一人一人が、この世界ならではの理由で除外されていくところはなるほどと思いました。魔術の効果が謎の解明に生かされているのも巧いです。
犯人捜しよりも驚かされたのは、塔からデーン人が脱出した方法です。これは、呪われたデーン人の特徴を生かした巧みな方法ですね。この世界でしか通用しないトンデモトリックで、山口芳宏さんの某作品のトリックを思い出しました。

剣と魔法の世界観を巧くミステリと融合させた、なかなか読み応えのある内容でした。「折れた竜骨」というタイトルは、ソロンの要だった領主のことを言っているのかと思っていましたが、違う意味でした。もう少し大きな意味を持たせても良かったのでは、と思います。あと欲を言えば黒幕については一方的に語られるばかりなので、心情面をもう少し知りたかった気がします。
読んでてかなり映像が浮かんだのですが、漫画化向きの作品かなあと思いました(あ、でも避けられないグロいシーンが…)映画化するともっと大変そうです。