ジェノサイド  高野和明

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創薬化学の研究室にいる大学院生の古賀研人は、亡くなった父親から、PCと創薬ソフトウェア、実験室を託されます。手紙には、これらを使い新薬を開発するようにとありました。
一方、アメリカの特殊部隊出身であるイエーガーは、難病に苦しむ息子の治療費用を稼ぐために、極秘任務を引き受けます。

ミステリベスト10を総なめにした感のあるこの作品。「本の雑誌」の上半期ベスト1に選ばれていたため、以前から読みたいと思っていました。
研人側、イエーガー側のストーリーが交互に描かれ、途中からは「ネメシス」作戦のブレインであるルーベンスのストーリーも絡まってきます。

戦争物、軍隊物が苦手なため、イエーガーのストーリーから始まった物語にやや不安を感じながら読み始めました。
しかし、研人のストーリーが謎が謎を呼び、組織から狙われる展開がスリリングで、次第に物語に引き込まれていきました。
これらのストーリーがどんな風につながって行くのが追ううちに、ページをめくる手が加速してしまいました。

イエーガー達は、アフリカで出会ったある人物を警護しながら、無事に脱出することができるのか、研人は新薬を開発できるのかという冒険小説として、そして、研人を陰から支えている協力者とは誰なのか、アメリカと通じて研人の情報を流している内通者は誰なのかというミステリとして、人類の未来を考える科学小説としてなど、いろいろな楽しみ方ができる物語です。

「ジェノサイド」というタイトルの通り、権力を手にした者の狂気や、戦争での悲惨な現実など、重い内容が語られます。このあたりはやはり読んでいてつらいものがありました。
しかし、重いテーマを抜群のリーダビリティで読ませる作者の筆力は素晴らしいです。
さすがに、取材に数年を費やした作品だけあります。

「誕生以来、二十万年を費やしても殺し合いを止められない哀れな知的生物」
というハイズマン博士の言葉には頷かざるを得ません。
また、出てくる国防に関わる内容のいくらかは事実なのでしょう。道を誤れば、どんな未来が待ち受けているか分からない恐ろしさを感じました。
戦争のない世界は、誰もが望むことであるはずなのに、それがいまだに実現できないって不思議ですね。

キャラクターとして気に入ったのは、研人とともに新薬を開発する韓国人の李正勲(イ・ジョンフン)です。癒し系の雰囲気ながら、鋭い頭脳と実行力で研人を支えます。ラスト近くの、力強い言葉とともにバイクで走り去るシーンにはグッと来ます。

傭兵のうちただ1人の日本人でありながら、憎まれ役として設定されていたミックも、逆の意味で印象に残ります。孤独でつらい少年期を送ったらしい彼は、最後まで孤独でした。彼なりに一生懸命に行動していたことを、イエーガーが認めてくれて良かったです。

好きな作品か…というと難しいですが、とても読み応えのある、そして様々に考えさせられる作品でした。