開かせていただき光栄です  皆川博子

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舞台は18世紀のロンドン。解剖教室を開くダニエルと、その弟子達は、解剖のための遺体をやむを得ず不正に手に入れていました。治安隊に踏み込まれ、慌てて解剖中の遺体を隠したのですが、その後取り出すとなぜか遺体は3つに増えていました。
治安判事と解剖教室のメンバーは協力して事件解決に乗り出します。

面白いです!先が気になって仕方ない作品は久しぶりでした。

まずキャラクターがとても魅力的です。世事には疎いけれど、外科医としての腕は一流の、人の良いダニエル。容姿端麗で優秀な一番弟子エドワード。天才的な腕をもつ細密画家のナイジェル。チャターボックス(おしゃべり)という通称をもつクラレンス。ファッティ(太っちょ)のベン、冷静でしっかり者のスキニー(やせっぽち)アル。弟子の全員が、10代後半から20代前半の若者ばかりです。
最初の、解剖中の遺体を隠すために起きたドタバタは、日頃の解剖室の賑やかな様子やメンバーの関係が想像できて楽しいです^^弟子達がみんなダニエルを敬愛かつ慕っていることが感じられてほのぼのします。
盲目の治安判事フィールディング、その配下であるボウ・ストリート・ランナーズに属する姪のアン。お金に動かされることがごく普通だった司法の中にあって、正義を貫く姿勢にはグッときます。
そして、ダニエルの飼い犬のチャーリー、ダニエルの兄ロバートの飼い犬のベスも、それぞれ思わぬ所で事件に関わってきます。犬なのにちゃんと人物紹介に載ってるだけあります(笑)

彼らの物語と並行して、少年ネイサンの物語が語られます。古語で詩を書く素晴らしい才能をもったネイサンは、それを出版してもらおうとロンドンに出てきたのですが、出会った人々に冷たくあしらわれます。そんな中出会って友人になったのがエドとナイジェルでした。しかし、ネイサンは思わぬ出来事に巻き込まれてしまいます。

それにしてもこの時代のロンドンってこんなだったんですね。燃やされた石炭から出る煤で街中真っ黒。司法制度も整ってないし、冤罪は当たり前だし…。外科医の地位が内科医よりもすごく低いって驚きです。人の体を傷つけるなんて…っていう考え方なんでしょうね。
でも、こういう時代背景をうまく取り入れて、それがストーリー上で意味のあるものになっています。

片方の遺体の四肢が切断されていた理由はすぐに明らかになりますが、これが一筋縄では行きません。最後には、え、そっち?!となります。よくこれだけいろいろ考えつくものです。
もう1つの顔を潰されていた遺体の身元は何となく予想つきましたが、事件や犯人が錯綜して何が本当か分からなくなります。そして新たな殺人が…。
でも、だんだんと、物語が嫌な方向に進みつつあることが分かってきます。そして、え~そんな…!って思ってたら、ますますどん底に…;;こうあってほしくない、と思う方にどんどん転がって行ってしまいます。

そしてラスト!あ~やられました。完全に。全く予想してなかったです。
最後にダニエルが言った言葉に胸がしめつけられました><遅すぎる言葉だったんですが…。
教室のみんなが歌う解剖ソング、ユーモアのある内容なんだけど、このシーンで歌われると切なくなってしまいます。

トリックにも捜査にも制限がある時代を背景にしながら、これだけ納得できるミステリを書く皆川さんは素晴らしいですね。しかも思ったよりとても読みやすかったです。
早くも今年のマイベスト10に入れたい作品です^^