楽園のカンヴァス  原田マハ

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アンリ・ルソーの大作「夢」と非常によく似た作品「夢をみた」の真贋探索を通して、ルソーと彼の絵を巡る人々の思いを描いた作品です。

ルソーの絵は知っていました。寓話的なイメージの作品だなと。
「日曜画家」と陰口を叩かれ、生前はほとんど評価されることがなかった不遇の画家であることは、この物語で初めて知りました。
出てくる絵をネットで検索しつつ、それを眺めながら読み進めました。

現在、大原美術館の監視員として働く織絵と、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の学芸部長であるティム。舞台は過去に飛び、二人が「夢をみた」の真贋を判断するために、伝説のコレクター、バイラーに呼び寄せられたことが分かります。そして、絵について納得のいく講評をした方に、取扱いの権利が与えられることになります。

この物語の面白いところは、物語の中に物語がある、入れ子式になっていることです。二人が、ルソーについて書かれた本を一章ずつ読んでいくところでは、二人と同様に、ルソーの物語がどのように進んでいくのか気になって仕方がありませんでした。
絵の女性ヤドヴィガに向けた愛情、生前のルソーを高く評価したピカソとの交流が描かれたこの物語、読んでいる間、絵の中に入り込むような気分を味わいました。
いったい誰が書いたのか?という謎にも最後まで引っ張られます。

「夢をみた」に隠された驚くべき秘密。ルソーの物語のラストの大文字。謎の女性との出会い。
多くの謎を秘めたミステリーとしての読み応えも素晴らしいですが、それ以上に、ルソーが絵にかける情熱、織絵とティムの、ルソーの絵を守ろうとする強い思いに胸が熱くなります。

日本では、東京国立近代美術館世田谷美術館大原美術館ひろしま美術館でルソーの絵が見られるようです。私の地元からも少し足をのばせば見られるんだなと思いました。
ルソーの作品でなくても、じっくり美術作品を見る時間をとりたいなあ…と。そういう気持ちになる素敵な物語でした。