有頂天家族  森見登美彦

森見さんの作品にもまだ数冊読んでいないものがあって…「聖なる怠け者の冒険」に、「有頂天家族」とのリンクがあると知り、まずこれを読んでおかないと、と手に取りました。

下鴨神社を囲む糺の森に住む狸の一家と、叔父一家との攻防をメインに、それを彩る天狗や半天狗、人間も交え、はちゃめちゃな騒ぎが巻き起こる、まさに森見さんらしい作品です。
「夜は短し…」もそうでしたが、昔ながらのおもちゃがつまった箱をひっくり返して、それが夜空いっぱいに広がったような、そんなイメージです。
いつものように京都が舞台なので、京都の町並みや風物詩など、旅情も感じられるところも楽しいです。

何といっても下鴨一家のキャラクターがいいです。愛すべき狸たちに、読みながらつい顔がほころんでしまいます。

三男の矢三郎がこの物語の語り手です。化けるのはたいてい「腐れ大学生」か女子高生で、阿呆であることを信条としていますが、家族ばかりか天狗の心配もしている面倒見の良さで、一番頼りにされるタイプです。その普通っぽさが何だか安心できる気がします。

狸の頭領である偽右衛門をめざす矢一郎、蛙に化けたまま井戸の底に引きこもる矢二郎、森見作品でおなじみ偽電気ブラン工場で働く矢四郎の兄弟達も個性的でいい味を出しています。

先代の偽右衛門である父の総一郎は、狸鍋を食べることを恒例とする「金曜倶楽部」によって狸鍋にされてしまいます。それで回想シーンにしか出てきませんが、今でも家族の心の支えであることを、心に残る名台詞とともに感じさせてくれます。
兄弟を叱咤激励しつつ温かく見守る母親とともに、大きな存在感です。

赤玉ポートワインばかり飲んでいる天狗の赤玉先生、あやかし的な雰囲気のある半天狗の弁天と、狸以外のキャラも魅力的です。

始めはそれぞれのキャラについて紹介しつつ、彼らにまつわる出来事を淡々とした感じで描いていますが、早雲一家との船合戦や、偽右衛門選出を巡る攻防の章では、これはもしかして祭り?と思うような、とんでもない盛り上がりを見せます。
兄弟がそれぞれの持ち味を生かして、協力して窮地を乗り越えるところはわくわくさせられます。
頼りにならないと思われていた兄弟も、思わぬ力を発揮して大活躍するのがスカッとします^^
それにしてもまさか、あんな物に化けるとは…。自分より大きな物なら何にでも化けられるのでしょうか?このシーンの疾走感は半端ないですね。

兄弟みんな「矢」の字がつくのは、「三本の矢」からでしょうか。ここでは四本の矢ですが。
愛情あふれた下鴨一家ですが、「阿呆の血のしからしむるところ」という言葉でそのつながりを表しているのが、何だか「らしいな」と思いました^^