解錠師  スティーヴ・ハミルトン

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8歳の時に遭った出来事のせいで声を失ったマイクルは、叔父の家に引き取られて生活します。
そこで、持っていた絵の才能を開花させ、一方で錠前を開けることに夢中になります。
そして高校生になった時、友人たちとした悪ふざけが元で、犯罪の世界に巻き込まれていきます。

MWAやCWAなどの名だたるミステリ賞を獲得している作品です。
翻訳者の越前敏弥さんが、マイクルを嵐の二宮くんを思い浮かべながら訳したそうで、ニノファンの皆さんがこぞって読んでいるとか。

絵が上手い、解錠師とくれば、大野くんじゃないかと思いましたが、読んでみるとなるほどなあと思いました。二宮くんが出演した映画、「青の炎」に似ているんです。原作は貴志さんですが、原作よりも映画の方がこの「解錠師」に近いです。
主人公が否応なしに犯罪に手を染めていくところ、抜け出すチャンスは幾度となく訪れるのに、悪い方の道を選んでしまうところ…。そして、そばにいる彼女が心の支えになり、彼女を助けるために行動するところなどです。
犯罪小説でありながら、青春小説の味わいがあるところも共通しています。17歳の少年の心の内を、繊細なタッチで描き出しています。
物語は、ある場所にいるマイクルが過去を回想する形で語られていきます。

絵と錠前を友達として過ごす1999年まで、犯罪に関わり始めた1999年と、すっかり犯罪者グループの一員となり金庫破りに手を貸す2000年の日々が交互に語られます。両者の時間はだんだんと近づき、緊迫感が増します。

ごく普通の若者が犯罪者へ転落するのは、こんな風に友達の誘いが断れなかったとか、そんなことなのだろうな…と思いました。今断っていれば、今背を向けて立ち去っていれば…と読みながら歯がゆい思いでいっぱいになりました。現在のマイクルが、そんな自分を悔いているモノローグが挟み込まれていて、それがまた切ないです。

アメリアとの出会いも皮肉です。悪ふざけが元で出会った二人でしたが、もう、父親が最悪です。
でも、こんな父親でもアメリアの父なわけで…。この家に来なければアメリアには出会わなかったし、だけどこの家に来たせいで犯罪に手を染めることになってしまうのですね。

どこかで強い意志を持って行動することができれば犯罪と手を切ることができたはずです。それができずにいたのは、やはり8歳の時のトラウマと、口が利けないために感情を上手く表せないことが関係しているのでしょう。そして、解錠師として自分が認められる喜びもどこかにあったのではないでしょうか。8歳の時の事については最後の方で語られますが、本当につらい出来事です。

でも、アメリアがずっと彼の支えになってくれたことが、明るい光となって物語を照らし続けます。交換日記のように絵を描き合うことで心を通じ合わせるエピソード、8歳の出来事を絵を描いて伝えるシーン…マイクルにとって唯一、自分の思いをはっきりと伝えることができる絵が、二人をつなぐ大切なものとして描かれ、心に残ります。
最後のシーンでアメリアから届く人魚の絵の手紙には胸を打たれました。

560ページの大冊ですが、長さを感じさせない物語でした。
日本で映画化されるなら、大人になった現在のマイクルを二宮くんが演じるのも良いかも知れませんね。出番が少ないのが残念ですが。