アルモニカ・ディアボリカ  皆川博子

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夢中になって読んだ「開かせていただき光栄です」の続編、出てすぐに買ったのですが、諸事情あってやっと読み終わりました^^;

天使のような格好で見つかった遺体。その胸には「ベツレヘムの子よ、よみがえれ!アルモニカ・ディアボリカ」の文字が…。
盲目の治安判事ジョン・フィールディングは姪のアンと共に事件解決に乗り出します。

前作で、去っていったエドとナイジェルとアボット、彼らとまた会えるのでは…と期待していました。その願いは叶えられたのですが、それがこういう形だとは…。

前作にあった、バートンズの明るさとにぎやかさ、そして胸がすくような逆転劇は今回はありませんでした。だいぶ趣が異なります。

〈ベドラム〉で生まれたナイジェルの手記に書かれた悲惨な境遇、一緒にそこにいた人々に繰り返される虐待に胸がふさがるような気持ちになりました。
〈ベドラム〉での日々を回想する手記の合間に差し込まれたモノローグには、エドへの思いがあふれていて、ナイジェルにとってダニエル先生の元でエドと過ごした日々が、最も幸せだったのでしょう。

 
ディーフェンベイカーが、なぜ〈ベドラム〉にいるのか、これはまさに「献身」ですね。しかも、相手はナイジェルが告げるまで全くその献身を知らず…。
エドといい、ディーフェンベイカーといい、どうしてここまで人のために自分を犠牲にすることができるのでしょうか。

イギリスの市街や生活の様子が生き生きと描かれているのは前作と同様ですが、退廃的で陰鬱な面を強調しているように思いました。
様々な事件の行く末も、幸せになった人々もいましたが、その陰で払われた多くの犠牲を考えると、とてもハッピーエンドとは思えません。
けれど、ひたすらに愛する人を思う気持ちや、〈ベドラム〉の人々が歌う「勿忘草」の歌が、物語を静かに浄化しているような気がするのです。

ダニエル先生を囲んで笑い合うような明るい日々が戻ってくることはあるのでしょうか。重い荷物を背負い込んで去っていった人たち、いつかそれを下ろして帰ってきてほしいです。