本をめぐる物語 一冊の扉

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ダ・ヴィンチ」掲載の作品に書き下ろしを加えた、本にまつわる物語のアンソロジーです。「ダ・ヴィンチ」は読んでいますが、掲載の小説は読んでないことが多いので、全作品初読でした。

初めての作家さんも多かったのですが、面白い作品とそうでないものとがはっきりと分かれました。

メアリー・スーを殺して」  中田永一
高校で二次創作の小説を書くことに没頭する主人公の物語です。
中田さん(乙一さん)の作品にしては珍しく共感しづらい作品。こういう世界に興味が持てないのが原因ですね。

「砂に埋もれたル・コルビュジエ」  原田マハ
ル・コルビュジエとは、有名な建築家です。
その本『輝く都市』を大切にしていた認知症の祖父は、過去に本を南の島に置いてきたと言います。
何よりも本を大切に思う気持ちと、本を通して戦後の復興にかける思いが感じられて、胸を打たれました。
さすが原田さんだと思う作品でしたが、事実を元にしているということが驚きでした。

「ページの角の折れた本」  小手毬るい
どんなに洒落た言葉を連ねても、本のページを折るという時点で、本に愛情がないことが分かります。ページを折ることを良いことのように書いているこの物語がどうしても受け入れられませんでした。

「初めて本をつくるあなたがすべきこと」  朱野帰子
ビジネス本を初めて執筆することになった夫に助言する苦労を描いたコメディです。
既婚の女性なら、「そうそう、わかるわかる!」と言いたくなるんじゃないでしょうか(笑)
かなりイライラさせられたあとの美咲の啖呵には、もうスッキリ!です。
溜飲が下がるとはこのこと(笑)面白かったです。

「時田風音の受難」  沢木まひろ
官能小説の新人賞で大賞をとった主人公が、二作目を書くにあたり、編集者とプロットの相談をすることになりますが…。
青年マンガの絵が浮かんできてしまうような、そういう雰囲気の作品です^^;

「ラバーズ・ブック」  小路幸也
アメリカを旅する男が立ち寄った店の、あるテーブルには、古びた読みかけの本が伏せられていました。
本の題名、本が伏せられているわけ、そして旅をする本…どれもこの舞台にぴったりでした。
これこそ、本を愛する人の物語だと思いました。登場人物からもそのことが感じられて心温まりました^^

校閲ガール」  宮木あや子
出版社の校閲部に所属する主人公が、あるミステリー小説の校閲をした時、矛盾に気づきます。
なかなか知ることがない校閲担当の仕事に、ミステリーを絡めているのがユニークでした。
普通校閲は内容にまでは触れないと思ってましたが、編集者がやる気がないから、こういうことになるんでしょうか。

「本にまつわる」と言っても、読む側、書く側、編集者、校閲者…と様々なパターンがあり、楽しめました。
原田さん、朱野さん、小路さんの作品が良かったです。
このシリーズ、もう一冊出ているようなので、また読んでみようと思います。