その女アレックス  ピエール・ルメートル

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昨年度の海外ミステリベスト1総なめの作品です。
暴力を振るわれ、木製の檻に監禁された女性アレックスの章と、目撃証言からこの事件を追いかける警部カミーユの章が交互に語られます。

監禁事件は第一部で終わってしまって、第二部のラストでは驚愕の展開に。第三部では、重要人物を追い詰める心理戦の様子を描いています。

何だか、何を書いてもネタバレになりそうなんですが。
巧いと思うのは、アレックスの素性が、なかなか警察に分からないことです。まずそれを捜査することでカミーユ達は苦戦します。
そう考えると、始めの方から周到に伏線が張られていたんですね~。
中盤からのどんでん返しといい、リーダビリティは半端ないです。

それにしても、これほど、ある人物への感情が上下させられるミステリっていうのも珍しいですね。
事件そのものはほんとに残虐で、たぶん映像になると(映画化が決まっているそうです)観るに堪えない感じになりそうですが、その背景に隠されていた事実を知ると、同情というか、もうそれを通り越して怒りを感じるのです。

張られた伏線で、ある人物が第二部のラストにとった行動の意図は予想がつくのですが、カミーユの班がそれを利用して重要人物を追い詰める過程が実にスリリングです。
きっと、みんな…真実は分かっていたのですよね。判事ヴィダールのラストの台詞「真実より正義」がそれを物語っています。

カミーユを始めとする、刑事達のキャラクターも魅力的です。
カミーユは身長145cmというハンデをものともしない有能さと個性の持ち主です。
誘拐事件で癒やされがたいトラウマがあり、今回の誘拐事件を担当することで過去と向き合うことになります。
著名な画家を母親に持ち、過去と決別するために母親の絵を手放そうとするサイドストーリーが、この陰惨な物語の中で心温まるものになっていました。

ルイはいつもブランド物でコーディネートしている富豪の刑事です。ハンサムで人当たりが良いのですが、いざとなると迫力です。ちょっとファンになっちゃいました(笑)
アルマンはルイとは対極にあるような倹約家で、服は中古品ばかり。新人が来ると親切にして煙草や備品を巻き上げるのが楽しみっていうのが面白いです(笑)
そして、大男の上司ル・グエンは、カミーユと長年仕事をしている女房役です。やり取りも、お互いをわかり合っていることが感じられます。

解説には、作者がデュマの大ファンなので三銃士を意識しているのかも、とありましたが、なるほどそんな感じです。
面白かったので、翻訳されていないシリーズをぜひ一作目から読みたいです。