夜の床屋  沢村浩輔

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書店員さんのおすすめPOPが付いて、平積みになってたこの文庫、聞いた事がない作家さんだなあと思ったら、これがデビュー短編集だそうです。タイトル作が「ミステリーズ!」新人賞を取った作品なのだとか。
主人公の大学生、佐倉と友人の高瀬が巻き込まれた事件の顛末を描く連作短編集です。

読み始めてすぐに思ったのは、文章にとても雰囲気があって引き込まれるということです。
佐倉と高瀬のコンビは、津原さんの猿渡と伯爵のような感じもちらっと。佐倉が、生活感がなくて謎なんですよね。

そして、何と言っても、謎の一つ一つが、結末が知りたくてたまらなくなるわくわく感に満ちています。
迷い込んだ街で真夜中に営業している床屋の謎とは?
寝ている間に消えた絨毯、十年前の霧の夜の出来事との関係は?
子供たちに頼まれた「ドッペルゲンガー探し」のわけは?
それぞれが、今までにないような謎で、発想がユニークなんですよね。

後半の「葡萄荘のミラージュ」から後は、四編に分かれているものの、内容から言うと中編です。これだけ、他の作品とかなり雰囲気が違って、日常からはかけ離れた、冒険的なイメージのある作品です。
葡萄荘と名付けられた別荘に、「財宝探し」を目的に招待された佐倉と高瀬は、そこにたくさんの野良猫が集まっているのを見つけます。招待してくれた友人はなぜか海外に行ってしまい、残された弟と二人は一緒に、隠された財宝の正体を探ることに。

財宝の正体は、ヒントもあって何となくそうかな?と思ってた通りだったんですが、そこに至るストーリーがとても読み応えがあります。
特に、作中作になっている「『眠り姫』を売る男」が、これだけで別の一作として成り立つ完成度の高さです。

そしてエピローグなんですが、これは少し無理があったかな、と。「葡萄荘~」だけのエピローグで良かったと思います。前半と後半の物語をリンクさせる試みは面白いですが、「葡萄荘~」のストーリーにどっぷり浸かっているところに、いきなり前の物語を出してこられて面食らいました。

だけど、さすが書店員さんのおすすめだけあって、楽しく読めました^^
文章が読んでいて気持ちが良いというか、自分に合っている感じです。気に入ったので、他の作品も読んでみたいと思います。