火花  又吉直樹

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ついに「文藝春秋」誌で本作を読みました。芥川賞の選評と、又吉さんのロングインタビュー、羽田さんの「スクラップ・アンド・ビルド」も載ってるのがお得です。

先輩芸人の神谷に憧れと羨望を抱きつつ、共に過ごす、芸人の徳永の日々を描いています。
又吉さんの作品は「第2図書係補佐」を読んでいましたが、語彙が豊富で、叙情的な表現が上手い人だなという印象でした。芸人としてネタを考えているだけあって、最後の落としどころも巧いですね。
本作も、情景描写や何気ないエピソードが素敵で、本筋とは特に関係ないところにも好きな表現がありました。
例えば、徳永が姿の見えない金木犀を、香りを頼りに探しに行くところ。香りがするのに気づいて辺りを見回したことは何度もあるけれど、わざわざ探しに行くのっていいなあと。時間があるって事なのかも知れませんが^^;

ところで、あれだけ徳永が心酔する神谷ですが、その魅力がよく分からなくて。
芸人としては優れたところがあるのでしょう。わずかですが斬新なネタをするっていうシーンもありましたし。でも、日常の様子を見ていると、言っては悪いけどただの変人。ラストの行動なんて常軌を逸してますよね。やすし師匠のような破天荒芸人なのか?と思えば、そこまでの器量でもないような気がするし…。

でも、徳永には魅力的に見えるんでしょうね。ずっと側にいる人だけが分かるってことなんでしょうか。神谷の相方も、いなくなった相方の居場所を作って待っててくれてるぐらいだから、神谷のことが好きなんでしょうね。
神谷のことをあれこれ考え、そして自分の漫才、生き方のことを考え…ごく普通に思い悩む徳永に何となく好感を持ちながら読み進めてしまいます。

一本芯が通った徳永という人間が、そんなにも傾倒する神谷…変だけど、やはり人を惹きつける何かがあるのかも、と思わせるところが、又吉さんの巧さなんでしょうね。
あまりにも自分とは違う人間、どうやっても彼には近づけそうにない…そんな人間に人は惹かれるのかも知れません。

徳永と同じ視点に立ちつつ、結局、神谷という人を思わずしげしげと眺めてしまう、そんな術中にはまる物語でした。