記憶屋  織守きょうや

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日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞した作品です。角川ホラー文庫から出ていますが、怖いと言うより切ない物語です。

大学生の遼一は、思いを寄せている先輩京子が夜道恐怖症なのを知って、協力して治そうとします。ですが京子は記憶を消してくれるという噂の「記憶屋」に会いに行ってしまい、恐怖症とともに、遼一のことも忘れてしまいます。
記憶屋について調べ始める遼一ですが、他にも記憶を失った人々が…。

4つの章それぞれで主人公がリレー形式のように変わります。1は遼一、2は遼一に情報をくれた弁護士の高原。3は高原の情報に上げられていた操(みさお)と同級生の要(かなめ)。4はまた遼一に戻って来ます。

都市伝説の謎と思われていた記憶屋の正体は?記憶を消すということは善なのか悪なのか?ということを中心に物語は進みます。

大切な人から忘れ去られてしまったことの苦悩、でも相手にとっては、嫌な記憶をなくすために必要なことだった…。また、思いやりによって、人の記憶を失わせる依頼をする登場人物も。

嫌な記憶をパッと忘れられたら便利でしょうが、人間ってそれなりに上手くできていて、嫌だったり恥ずかしかったりした出来事も、だんだんと記憶から薄れていって、「今ではいい思い出」と語れることもあるでしょう。その間に学習して良い対処法を身につけたりなど、人間的に成長する事もあるはずです。
遼一が言うように、記憶を失う事は、そこで道が断ち切られてしまい、そこから広がる可能性が0になってしまいます。
ただ、人生を変えるほどの嫌な出来事を経験する人もいるわけで…。そういう人にとってやはり記憶屋は必要なのかも知れない、と最後まで遼一とともに考えさせられます。

一番好きな章は高原の物語です。高原の周囲の人間への思い、それを見つめる外村の思いに胸を衝かれました。

ホラーとしてとらえるなら、一番怖かったのはラストでした。切ないシーンでもあるのですが、結局○○は相手の思惑とは関係なく自分の思い通りにしてしまっているわけで…。一線を踏み越えてしまっている気がします。もしこのままエスカレートしたら?と思うと…。

初めて読んだ作家さんでしたが、構成や描写の上手さが光る作品でした。作者は弁護士さんで兼業作家だそうです。





ホラーは最近全く読んでないことに気付きました(苦笑)せでも切ない系なのですねー。そう言われるとタイトルも切ない感じに思えてきますね。
今年一年、というか、一ヶ月ありがとうございました。こちらでもあちらでも、来年もどうぞよろしくお願い致します。良いお年をお迎えください。 削除

2015/12/30(水) 午後 9:07 チルネコ 返信する
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>チルネコさん

表紙がもう切ない系ですよね。最後まで読んで切なく感じるか、それとも怖さを感じるか、人によって分かれそうです。
今年はチルネコさんが戻ってきてくれて、嬉しい年でした。来年もよろしくお願いします^^ 削除