カールの降誕祭  フェルディナント・フォン・シーラッハ

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短編が三編所収です。タダジュンさんの挿絵が、この残酷で乾いた世界観にぴったりです。

「パン屋の主人」
誤解から殺人を犯したパン屋の主人が刑期を終えて、また働くようになります。彼は恋をして、彼女のために渾身のタルトを作るのですが…
ショックだったっていうのは分かるけれど…それがすぐに犯罪につながってしまうっていう短絡さが怖いですね。最近の犯罪ってこういう感じのが増えてませんか?

「ザイボルト」
裁判官として、公私ともに公明正大に過ごしたザイボルトは定年を迎えます。
念願の海外旅行に行くのですが、ちっとも楽しめません。暇を持て余して裁判所に顔を出し、仕事に口出しして元の同僚を困惑させます。
仕事人間が定年になってどうしていいのか分からなくなるって普通にある話ですが、ザイボルトの場合、その後の振り切れ方がすごいですね。家族の立場に立つとやり切れない気持ちがします。

「カールの降誕祭(クリスマス)」
貴族である母に支配された家で育ったカールは絵を描く事を愛していました。しかし描いた絵を母に貶されたことから、絵をやめて保険会社に勤めて数字の世界で生きる事にします。
養子である息子を連れてクリスマスに実家に戻ったカールは、ツリーの飾り玉を眺めていましたが…
飾り玉がきっかけっていうのが、カールの精神が危うい所に来てしまっている気がしますが、ずっとかけられてきた圧力の末だと思うと、ちょうど「あさが来た」で惣兵衛が母親に斬りかかった心情と同じですね。

淡々とした、短文で書かれた文章が、読んでいてしんしんと染みてくるようです。「犯罪」「罪悪」の「まさか」と思えるような事件とは違い、どれもよくありそうな事件なのに、なぜか現実感がなくて残酷な寓話を読んでいるような気持ちになります。手軽に読める厚さですが内容は重いです。

AXNミステリーで放送あった「犯罪」のドラマ化作品ですが、AXN観られなかったので円盤化してほしいです。もしくはHuluで配信とか…