恩讐の鎮魂曲  中山七里

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弁護士御子柴礼司シリーズ最新作です。
前作の展開から、事務所はすっかり閑古鳥が鳴くようになり、仕事の依頼が来るのは暴力団事務所だけ。それでも全く平常心の御子柴でしたが、新聞で、かつて指導してくれた元医療少年院教官の稲見が殺人の容疑で逮捕されたという記事を発見します。それは、入所している老人ホームの介護士を撲殺したというものでした。

いつものように恐喝すれすれの手段で、稲見の弁護士の座を手に入れた御子柴は稲見と接見します。しかし、稲見は完全に自分の罪を認め、複数の入居者達の証言もそれを裏付けるものでした。
御子柴はこの状況を打破することができるのでしょうか。

稲見は昔気質の頑固一徹で、自分の罪を償うと言い張り、弁護に全くと言っていいほど協力しません。御子柴にとってそんな相手を弁護するのはは初めてで、振り回される様子が面白いです。

冒頭、韓国船ブルーオーシャン号が沈没するという事件が描かれます。乗組員が乗客を置いてさっさと逃げ出している様子から、たぶんセウォル号の事件を下敷きにしているのでしょう。その中で、男性が女性を殴って救命胴衣を奪う様子が、防犯カメラに収められていました。この事件が、介護士殺人事件にどのように関わってくるのかが見所です。

事件に誰が関わっているのかは何となく読めてしまうけれど、このシリーズで重要なのはやはり御子柴の心情です。稲見は彼にとって自分を生まれ変わらせてくれた人間であり、稲見がいてこそ今の御子柴があるのです。稲見を助けられなければ何のための弁護士なのか…という思いが痛いほど伝わってきます。いつも冷静な御子柴が、恩師のことでは、衝動的にさえなってしまう姿に、今までにない御子柴の人間性が感じられます。

前作の衝撃の展開でさえ弁護士を辞める気がなかった御子柴が、ラストに弁護士を辞めようと思い立ちます。しかし一通の手紙が…。
まさかここであの人から手紙が来るとは。もう、やられました。すっかり御子柴と同じ気持ちになってしまいました。

一作目の『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』は 三上博史さんが御子柴役でドラマ化されています。彼の御子柴がなかなか良かったので、続編もドラマ化してほしいです。本作のラストシーン、ぜひ観てみたいです。