堆塵館  エドワード・ケアリー

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ロンドンの外れにある巨大なごみの堆積場に、「堆塵館」と呼ばれる屋敷があり、そこにはごみの中から有用な物を掘り出して財をなした、アイアマンガー一族が住んでいました。
その一人、クロッド・アイアマンガーを中心に、独自のしきたりと不思議な出来事を描いた物語です。

表紙に描かれている、陰鬱な顔をしたクロッド少年。このイラストは作者自身が描いたもので、章ごとの登場人物が描かれた扉絵も全て作者作です。これが物語と相まって作品の雰囲気を作り上げています。

それにしても、これほど独創性と意外性に満ちた物語に出会ったのは初めてかも知れません。
堆塵館の上層には純血のアイアマンガーが住み、下層にはアイアマンガーの血が一応は流れている使用人達が住んでいます。彼らは非アイアマンガーが入り込むことを極端に嫌います。
彼らはロンドンの外れに追いやられ、差別された一族でもあるのですが、アイアマンガー側からすると、孤高を保つというか、彼らの方から他の人々を差別しているという感じなのでしょう。純血のアイアマンガーは、まるで貴族のような暮らしぶりです。

アイアマンガーのしきたりで最たる物は、生まれた時に「誕生の品」を決められることです。クロッドの場合、それは浴槽の栓です。クロッドは誕生の品の声を聞く、一族の中でも珍しい力を持っています。なぜか聞けるのは「ジェームズ・ヘンリー・ヘイワード」など、名前ばかりなのですが。
純血ほど、誕生の品を肌身離さず持っていることが多く、巨大な暖炉を誕生の品に与えられたクロッドの祖母は、一生を部屋から出ずに過ごしたほどです。
美しい物、そうでない物、物に溢れたこの物語は、物に対するこだわりや愛情を感じさせます。自分にも、自分にとってだけ大切な、愛着を持った持ち物があったことを思い出しました。
この世界の中では、比喩的にではなく、物は生きているのです。

クロッドは使用人としてやって来たルーシー・ペナントと運命的な出会いをします。それをきっかけに、堆塵館の均衡が崩れ始め…。
風変わりで常識外れなアイアマンガーたちは、「不思議の国のアリス」の登場人物を思い出させます。その中でクロッドは常識を保った人物で、彼が出てくるとホッとさせられます。
世間とは全く違うしきたりで動いている「不思議の国」堆塵館を訪れることになったルーシーはアリスのような役割なのかも知れません。

次に何が起こるか全く予想の付かないストーリーにとても惹きつけられました。特に物語終盤の怒濤の展開には、この後どうなるの!と気になって仕方ありません。
来週、第二部「穢れの町」が出るので、すぐに続きが読めるのが嬉しいです。