書架の探偵 ジーン・ウルフ

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推理作家であるE・A・スミスの複製体(リクローン)である主人公は、図書館で借り出される「蔵者」です。
作家から直接話を聞けるというのはその作家のファンからすれば、夢のような話ですが、大富豪の娘コレットがスミスを借り出したのは、そういう理由ではありませんでした。
彼女の兄が殺され、金庫に残されていた一冊の本の作者がスミスだったからで、その本に隠された秘密の解明にスミスが役立つのでは、という考えからでした。

ジーン・ウルフは初読みで、勝手に読みにくいのではという先入観を持っていたのですが、SFミステリではあっても、難しい理論は全くなく、読みやすかったです。
今回、電子図書で読んだので、厚さが分からないのですが、かなり長いです。もしかしたら、2段組?

蔵者、という設定はユニークですが、最初に思ったのは、収納場所に困るのでは?ということです。蔵者はもちろんスミスだけではないので。また、基本、人間と同じなので、食事もすればお風呂にも入ります。それにかかる費用を考えれば、作家の情報をデータ化して、ホログラムや3D映像でも使った方が良さそうです。

設定は面白かったのですが、謎が解明されてみると、蔵者でなくても解明できたのでは?という気がしました。
コレットの父は、短い期間に巨万の富を築いたけれど、それはどこから来ているのか?というのがもう一つの謎になっています。
その謎が、突拍子もないもので、それまでの展開とだいぶ様変わりしてて驚きました。
実は本の秘密もここにつながっています。
なぜそうなっているの?という理論や説明はだいぶ前に出てくるので、忘れた頃の急展開に、不意をつかれます。
でもこの設定を、最後の敵をやっつけるのに利用するところはスカッとします。

コレットに、これからも毎年自分を借り出すことを約束させるなど(ずっと借りられない蔵者は、焼却処分になるため)最後まで蔵者という設定への作者のこだわりを感じましたが、もう少し、蔵者としての知識が生かされる展開だったら良かったな、と思います。

でも、リーダビリティはなかなかのものです。作者の他の作品も読んでみたくなりました。