ミスト 短編傑作選  スティーヴン・キング

イメージ 1

キングとの出会いは、短編集『骸骨乗組員』でした。その中の中編『霧』に魅了されて、それ以来キングの短編、長編を読みあさりました。ホラーというジャンルにこの頃はまったのもキングのおかげです。
最近はあまりホラーを読まなくなり、キングからも遠ざかっていましたが、『11/22/63』
を読んで、またキング熱が再来しました。『11/22/63』は、ホラーではなくSF設定の人間ドラマでしたが。
本短編集のタイトルである『ミスト』が前述の『霧』です。映画化もされ、原作とは違う展開の不条理ホラーに仕上がってましたが、キングはこの映画のラストを絶賛していたそうです。私は原作の希望が持てるラストが好きだったので、映画を観て「何これ…」とショックを受けました。
今回、久し振りに原作を読み直しましたが、映画を気に入ったキングがラストを書き直したバージョンが入ってるんじゃないかと(そんな事実はありません)ドキドキしながら読み進めましたが、オリジナルのままで安心しました。

キングの過去の短編集の傑作選なので、読んだ作品ばかりですが、前に読んだのは学生の頃なので、よく分からない所はすっ飛ばしてたような気もします。今回読み直して、新しい発見もありました。

「ほら、虎がいる」
学校のトイレになぜか虎がいるという、あり得ない出来事を描いた一編です。これを読んで私は、筒井康隆の「走る取的」を思い出しました。お相撲さんが主人公をひたすら走って追いかけてくるという恐怖で、これはどちらかというとスピルバーグの『激突!』に近いのでしょうが、理由が明らかにされないまま、それが現実として否応なく迫ってくるという所が共通で連想しました。

ジョウント
読んだ当初は難解だと思ってましたが、読み直すとジョウント(テレポーテーション)の仕組みや歴史が丁寧に描かれていて読み応えありました。ベスターの『虎よ!虎よ!』が元ネタっていうのはすっかり忘れてました。設定は完全にSFですが、ラストはキングらしいホラーなオチです。

「ノーナ」
これは、読んだ当時の私には印象に残らなかった作品のようで、忘れてしまってました。ノーナという女性と逃避行しながら、彼女に促されるまま次々に殺人を犯す男のエスカレートする行動と心理が描かれています。
怖いのは、ラストに何が現実なのか曖昧になるところで、今読んでみるとけっこう雰囲気のあるホラーでした。

カインの末裔
突如銃を学校で乱射し始めた男の行動が、彼の不条理な思考とともに、時間を追うように描かれています。
本人は確固たる信念を持って行動しているつもりのようですが、それがまるっきり異常で理解できないのは、実際の事件でもありがちですね。この短編と同じ設定の『ハイスクール・パニック』は、実際に起きた銃乱射事件で犯人がこの本を持っていたそうで、キングの意向で絶版になったそうです。でも、私はこの本持ってますが。

「霧」
町をじわじわと覆い始めた、謎の霧。スーパーマーケットに息子のビリーと出かけたデヴィッドは、霧の中から来たモンスターが知り合いを襲う現場に居合わせます。霧に取り巻かれ、マーケットから出られなくなった人々は、いくつかのグループを形成し、それぞれの信条によって行動します。
この物語が面白いのは、霧による閉塞感と、モンスターの襲来に加え、内部の人々が狂信的な指導者によって先導されていく様子です。人間が追い詰められた時、最後に頼るのは宗教なんだなというのは、現実の出来事やほかの小説などでも思うことですが、怖いのは、それが間違った教えや行動であっても従ってしまうということです。
モンスターの怖さとともに、人間の怖さが強調されているのがキングらしいです。
原作と映画でラストが違っているのは前述の通りですが、ネットフリックス作成のドラマ版があって、それは観ていないので観たいと思ってます。こちらのラストはどうなのか気になります。