スケルトン・キー  道尾秀介

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久し振りの黒ミッチー。抜群のリーダビリティーでした。

主人公の錠也は、子供の頃母を殺され、父親はおらず養護施設で育ちました。
自分が他の人間とは違い、恐怖を感じず、危険なことや不道徳なことを平気でできることに気づいており、それがエスカレートすることを薬を飲むことで防いでいました。
雑誌記者に雇われ、危険な情報集め等を行って収入を得ていましたが、取材相手に目を付けられ、危機に陥ります。

一方同じ養護施設出身の迫間順平とは、子供時代から因縁のある仲で、成長してからも、彼に関わりながら、錠也の家族の秘密が明かされていきます。

この物語のキーワードは「サイコパス」。登場人物のほとんどが大なり小なりその傾向があり、サイコパスという人格がどのように作られていくのかということについても、遺伝説、環境説、その他の要因と、例が挙げられていきます。
遺伝的要因があっても、全ての人間がサイコパスになるわけじゃなさそうだし、やっぱり複合的な要因なんでしょうね。鉛っていうのはどうなんでしょう。サイコパスはいっぱいいるだろうけど、鉛が関係ある人なんてめったにいないんじゃ…。

トリックですが、古典的な○○を使ってます。ある登場人物の呼び名の違いから、変だなと思ってたのですが、これは○○○○とどっちかな?と思いました。ただの○○トリックだけじゃなく、叙述トリックを上手く使ってるのが道尾さんらしいですね。
後半になると、登場人物によって章が別々になっていますが、前半までは、同一章の中で、呼び名をある人物が錠也を陥れるために使っていて、読む方もすっかりミスリードされます。

ラスト近く、不穏な展開だったので、どんでん返しがあるんじゃないかとドキドキしましたが、これはもしや、続編に続く…ですか?
『風神の手』の感想で、「本当の悪人は誰もいない」と書いたのですが、『スケルトン・キー』は、「本当の善人はほとんどいない」という感じでした。母親の「大丈夫です」も空しく響きますね…。全然大丈夫じゃないじゃん!とツッコミたくなります。錠也としては、これが心の支えになるのかも知れませんが。

最近の道尾さんは純文学系や人情もの方面に行こうとしてるんじゃないかと思ってたので、読後感はいまいちでも黒ミッチーが読めて満足です。