無貌の神  恒川光太郎

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恒川さんの物語は、現実とは違う異世界なのですが、読み始めるとすぐにその世界に入っていけるのが不思議です。その独特の雰囲気は恒川さんにしか出せないものだなあと感じます。

「無貌の神」
深い森の中の小さな集落の人々は、顔のない神を信仰していました。傷を癒やす力をもつ一方で、村人をとって食う、恐ろしい生き物でもある神。この村に迷い込んだ子供である主人公は、その神の代替わりの謎を知ることになります。
神の体を食べると、二度と元の世界には戻れないというのは、黄泉の国の食べ物を食べると現世には戻れないという日本神話を元にしているのでしょう。信仰のもつ両面性を感じさせる物語です。

「青天狗の乱」
江戸時代、流罪になった罪人である鷺照(ろしょう)の元に、青い天狗の面が親元から届けられました。やがて、その島では、青天狗の面をかぶり、悪事を働く若侍を成敗する事件が…。鷺照は行方不明に。下手人はやはり鷺照なのでしょうか?
真実は分からないものの、鷺照の元に面を届けた男が、真相を予想する展開になっています。

「死神と旅する女」
大正時代、死神らしき男に引き取られ、命ぜられるままに人斬りを続けた娘フジは、やがて、その意味を知ることになります。時代設定が謎と密接に絡んでいて、恐ろしい物語ではあるのに、最後にはスッキリとした気分にさせられます。

「十二月の悪魔」
白い家ばかりが続く町に住む男は、自分が犯罪を犯して服役後出所した記憶以外は曖昧でした。やがて町の中でさまざまな人間に出会いますが。この町のもつ役割がポイントです。「世にも奇妙な物語」にありそうな話なので、映像化もありかも。

「廃墟団地の風人」
廃墟に住む風人のサブロウは、そこで出会った少年裕也と友達になります。裕也の危機に瀕して、サブロウがとった行動は…。風人とは何か知れば、それらしい解決方法だな、と思います。

「カイムルとラートリー」
ある国で生け捕られた崑崙虎の子供カイムルは人語を解し、しゃべることができました。皇帝の娘ラートリーは、カイムルをかわいがり、さまざまなことを教えます。
イムルとラートリーの交流にほのぼのとしますが、国の情勢の危うさが暗い影を落とします。しかし最後まで変わらない二人の絆に胸を打たれます。

「死神と旅する女」「カイムルとラートリー」が読み応えがありました。「カイムルとラートリー」の国のモデルがどこかははっきりとは分かりませんが、崑崙山脈チベットの北部であることから、チベットなのかも知れません。そんな大陸的な雰囲気の作品です。