怪奇大作戦ミステリー・ファイル  小林弘利

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BSプレミアムでの再放送を楽しんで観ていて、ノベライズがあるということを知って読んでみました。

元々NHK放送のドラマですが、生理的にぞわぞわ来るようなグロ表現や、原初的な恐怖を誘発するようなモチーフの数々はNHKとは思えないほどです。そこが怪奇大作戦らしいところなのでしょうが。

 

常識では解決できない不可解な犯罪を捜査するSRI(特殊科学捜査研究所)を舞台に、SRIの頭脳牧史郎を中心に、怪奇な事件を科学の力で解明します。

牧は心に闇を抱えていて、それは犯罪への興味が募るあまり、自分が犯罪者に踏み込んでしまう境界線にいるという事です。小説でも同じではあるのですが、小説の牧はもう一つの闇の要因「青い箱」を持っています。

青い箱の中身は牧のモノローグで仄めかされているので予想がつきますが、その中身をどうするかという事も彼を悩ませています。ただ、中身への思いが彼の研究の原動力でもあり、現在の彼を形作っていると言ってもいいかも知れません。

そんな闇落ち寸前の危うい牧が、実際に境界線を踏み越えてしまった科学者や科学を使える人間たちの犯罪に立ち向かいながら、自分の内面とも向き合う、それが見所でもあります。

 

4つの話のうちの2つは、大切な人の病気を治すまたは甦らせたいというのが犯罪の理由で、そのためもの悲しい雰囲気が感じられる作品になっています。

1つはある手段を使って新しい世界を作ろうとする目的。

しかし最後の「深淵を覗く者」は様々なことが曖昧でそれはドラマも同様です。

犯人が様々に繰り出してくる犯罪の手口は牧を魅了し、深淵に引きずり込もうとします。

「怪物と戦う者は、その過程で 自分自身も怪物になることのないよう気をつけなくてはならない。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」

とは、ニーチェの言葉。要するにミイラ取りがミイラになることのないようにということなのでしょう。

深淵を覗く牧はどうなるのか、また青い箱に対してどのような選択をするのか…。

「深淵を覗く者」はドラマの4編の中でも屈指の名作とされていますが、科学サスペンスとしてというより、牧の苦悩がよく描かれているからではないかと思っています。

 

牧はコーヒーに砂糖を3つも入れる甘党のコーヒー好きで、高いエスプレッソマシンでコーヒーを入れて味わうシーンがドラマでも小説でも頻繁に出てきます。

陰惨な事件が続く中で、牧のコーヒーのシーンは本人同様ホッと息がつけるシーンです。また、変わり者として有名な牧もSRIの中にはちゃんと居場所があるようで、メンバーとの心温まるやり取りもあります。

 

ドラマ以上にグロいシーンもありますが、牧についてもっとよく分かる内容になっているので、ドラマファン、牧ファンの人には一読の価値ありです。