一億円のさようなら  白石一文

             

              f:id:nekolin55:20201025123020j:plain


ドラマに合わせて読み始めたけど、けっこうな大冊でドラマが終わるまでに何とか読み終われました←遅読

主人公加能鉄平が、妻の夏代が48億円もの遺産の持ち主であると知った事をきっかけに家族との関係を見直すストーリーで、妻との過去を振り返るシーンが挟まれます。
ジャンルで言えば家族小説という事になるんだろうけど、今まで読んだことがないタイプの小説だったので読み始めはだいぶ戸惑いました。

夏代は大金を実際に持ってみて使い道を考えようと、一億円の現金を鉄平に残しいなくなります。楽しむことをまず一番に考える夏代と、今後の生活設計を考える鉄平、性格の違いが現れてます。
夏代が遺産のことを言わなかったの、分かる気がするんですよね…これだけの大金があると、何をするにもそれが前提になってしまって、普通の生活が送れなくなる気がします。
前半はこれでもかと鉄平を困難が襲い、妻のこと、子供たちのことに加え、会社でも大きな問題がおき、とうとう会社を辞めることになります。ドラマではクビになってたけど、原作では自分から辞めてます。

全てを捨てて単身金沢に引っ越した鉄平は新事業を始めるのですが、それが今までの自分の仕事とはかけ離れた海苔巻き屋だというのが面白いです。でも、経営の才覚がある鉄平はここでも大成功します。
鉄平はかつての同僚や夏代からもう一度福岡に戻ってやり直すことを懇願されるけれど、新事業が軌道に乗っている彼がどんな選択をするのか…というのが後半の読みどころです。

ラストの夏代の驚くべき行動、したたかな女性と言うこともできるけど、遺産の事は忘れて過ごそうとしていた彼女が、最後に愛する人を取り戻すために最もいい遺産の使い方をしたんじゃないかなと思います。鉄平には考えも付かないような大胆な発想と行動力、ラストの鉄平の言葉もうなずけます。

二転三転する見事なストーリー運びだったと思うけど、鉄平の高校時代のエピソードだけはいらなかったんじゃないかと。
いざとなったら驚くべき行動に出ることもある人、というのを補完するためだったのかもですが、これはやり過ぎでは。鉄平にはそぐわないような気がしてなりませんでした。ドラマでは宅磨の名前は出てきたけれど、あっけらかんと話す鉄平に、ああ、このエピソードは変更されている、と思って安心しました。

あと、福岡と金沢という2つの街について、実在の店や地名を挙げながら描かれていて、福岡によく行っていた自分にはリアル感がありました。
出てくる食べ物もそれぞれ美味しそうで、海苔巻き屋のメニューの多さも、地元のチェーン店のお寿司屋でよく買っていた海苔巻きを思い出して食べたくなりました。

原作のエピソードが今後どのようにドラマで描かれるのか楽しみです。